【相続法逐条解説②】民法896条~民法914条  相続の効力編

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【相続法逐条解説②】民法896条~民法914条  相続の効力編

【第3章 相続の効力】

896条(相続の一般的効力)

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

趣旨:相続によって相続人は被相続人の権利を包括的に承継するという基本原理を示した。
すなわち、被相続人が主体となっていた法律関係全体が一身専属権(被相続人にだけ帰属しているような義務、権利など)を除いて、全て相続人を新たな主体とする法律関係となるということ。

・「一身に専属したもの」とは被相続人だけに属する権利や義務のことを指す。被相続人でなければ帰属しないものを指す。具体的には被相続人にしか享有し得ない権利義務をいう。
例)委任契約上の権利義務、生活保護を受ける地位など

897条(祭祀に関する権利の承継)

系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

墓石や仏壇など祭祀の相続に関する規定。祭祀に関する相続については祭祀主宰者が相続する。祭祀主宰者は被相続人の指定がある場合には指定された者がなり、してがない場合は慣習等によって決定される。

・夫の死亡後、生存配偶者は祭祀を新たにその権利を承継し、遺体・遺骨の所有権は通常の遺産相続によることなく、その祭祀を主宰する生存配偶者に新たに帰属することとなる(東京高判昭62.10.8)

・祭祀に関する物の所有権は慣習に従って祖先の祭祀を主宰する者が相続する。この者は親族であるものに限られない。

・被相続人が所有していた祭祀財産は遺産分割の対象とならない。

898条(共同相続の効力)

相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

共同相続人がいる場合、相続財産は共有とされることを定めた規定。

・「共有」の意義については争いがある。
①共有説…個々の財産、及び相続人各人の権利義務の独立性をできるだけ認めようとする見解。(最判昭30.5.31)すなわち、相続人が有する相続分を第三者に譲渡した、登記することが認められる。
[根拠]・898条が「共有」と規定しているため。民法上の「共有」と同様の扱いをした。

・909条但書が遺産分割前の各相続人の相続分について各自の処分が有効であることを前提としていること。

②合有説…包括財産という相続財産の特殊性や共同相続人という特殊な人間関係をできるだけ重視しようとする見解
[根拠]・各相続人は遺産分割手続きによらず、個々の相続財産を個別的に分割請求することができない。

・共同相続人の一人が共同相続した財産を他の共同相続人に無断で自己名義登記した場合、他の共同相続人は自己の相続分の範囲で抹消登記請求をすることができる。しかし、この場合、他の共同相続人は全部の抹消登記請求はできない。(最判昭38.2.22)

・共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許可を得て遺産分割財産の対象となる建物に被相続人と同居していた場合は特段の事情のない限り被相続人の死亡後、遺産分割前までは他の相続人と建物の使用貸借関係(無料で貸借する契約)があると推認され、被相続人と同居していた相続人は建物を他の相続人にお金を支払うことや明け渡しの請求に応じることなく、権限を主張して使用することができる。(最判平8.12.17)

・事実上婚姻関係にある夫婦が同一不動産に同居していた場合、特段の事情のない限り両者間で一方が死亡した場合は他の一方が単独で当該不動産を使用する旨の合意が成立していたと推認すべき。(最判平10.2,26)

・遺産確認の訴えは特定の財産が現在、共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることを求める訴えである(最判昭61.3.13)

899条

各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。

・所有権などの物権の共同相続…持分の割合は法定相続分(900条で定められた相続分)によって決まる

・債権の共同相続
①分割することのできる債権(金銭債権など):共同相続人の相続分の割合で当然に分割しその分が各相続人に承継される(最判昭29.4.8)。
②分割することのできない債権(物の引き渡し債権など):共同相続人は共同して履行請求しなければならない。

・債務の共同相続
①分割できる債務:当然に各相続が各自の相続分に応じた債務を負担する。(最判昭34.6.19)
②分割できない債務:各相続人が全部の債務について負担する(大判大11.11.24)

899条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)

相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

趣旨:従来の判例(最判平14.6.10)では被相続人が相続人の法定相続分を超えて「〇〇に相続させる」という遺言を残した場合、その者の相続分は第三者に登記なくして対抗できるとしていた。そのため、遺言内容を知ることができない相続債権者や債務者等の利益や第三者の取引の安全の確保の必要性について問題が生じていた。そこで、相続により法定相続分を超える相続をした場合には、その超過分は対抗要件を備えなければ他の第三者に対抗できないと改正された。(平成30年改正)

・物権の対抗要件…法定相続分を超える部分については177条の登記具備、178条の引き渡しなどの対抗要件を備えなければならない。

・債権の対抗要件…法定相続分を超える部分については債務者対抗要件、第三者対抗要件(を備えなければならない。

900条(法定相続分)

同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
1号 子及び配偶者が相続人であるときは、この相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
2号 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は3分の1とする。
3号 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
4号 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。

趣旨:各共同相続人の相続分は遺言などの被相続人の意思表示があればこれに従うことになるが、必ずしもこれがあるとは限らない。そこで意思表示が存在しない場合に相続分を法定した。

901条(代襲相続人の相続分)

第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分に
ついて、前条の規定に従ってその相続分を定める。
2 前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。

代襲相続とは、相続人となる者が相続人としての地位を失ったときにその相続人の直系卑属が相続人に代わって相続分を相続することをいう。

・代襲相続分…被代襲者(相続人の地位を有していて、その地位を失った者。)の受けるべきであった相続分同じ範囲(1項本文、2項)

・代襲相続人が複数人いる場合には900条の規定に従って被代襲者の相続範囲内で分割される。

902条(遺言による相続分の指定)

被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。

趣旨:被相続人の意思を尊重して各相続人の相続分を決定させることとした制度。

902条の2(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使)

被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。

趣旨:遺言により被相続人による相続分の指定がある場合であっても、被相続人の債権者は法定相続に従った相続債務の履行を請求ができるとした判示(最判平21.3.24)を明文化した。(平成30年新設)

・相続債権者が指定相続分による債務の承継を承認した場合には法定相続分の割合で相続人に対し債務履行請求することはできない。(但書き)

903条(特別受益者の相続分)

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

改正内容:4項の新設
20年以上夫婦関係である者に対する居住用不動産の遺贈または贈与について、改正前は特別受益(相続人が被相続人の生前に特別に利益を受けたため、この利益を受けた者は利益を受けた分を相続分から控除される)と扱われていたが、このような遺贈、贈与については特別受益と扱わないという意思表示が被相続人によってなされていると推定された。

趣旨:相続人の中に被相続人から特別の財産的利益を受けた者がある場合、相続人間で不公平が計算上生じないようにするためその利益分を相続分から控除した

904条

前条に規定する贈与の価格は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があった時であっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

904条の2(寄与分)

共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。

趣旨:相続人中に被相続人の財産の形成・維持について特別の寄与をした者がある場合には相続人間の不公平を計算上生じさせないようにするために相続分に寄与分を付加した。

・寄与分を定め場合は、寄与分によってが他の相続人の遺留分が侵害されないかを考慮しなければならない。(東京高裁決平31.12.24)

905条(相続分の取り戻し権)

共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない

趣旨:共同相続人の一人が相続開始から遺産分割の間に第三者に自己の相続分を譲渡した場合、遺産分割に第三者が介入することを防止すること。

・共同相続人の一人が遺産を構成する特定の不動産に対する共有持分権を第三者に譲渡したとしても、本条を類推適用することはできない(最判昭53.7.13)

906条(遺産の分割基準)

遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

趣旨:共同相続人の遺産分割が算術的に公平に行われるだけではなく具体的に公平に行われ、かつ遺産の社会的・経済的価値が損なわれないように遺産分割を行わせることを企図した。

906条の2(遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)

遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

趣旨:遺産分割前に財産が処分された場合であっても、全員の同意により、当該財産を遺産分割の対象とすることができること、この同意には処分した者は除かれることとしたことで共同相続人間の公平を図った。(平成30年新設)

907条(遺産の分割の協議又は審判等)

共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
3 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

趣旨:遺産の一部分割をすることによって全体として適正な分割を行うために支障が生じないことという要件を満たすことによって、改正前には明文規定がなかった遺産の一部分割について明文を設けた(平成30年新設)
1項:相続人間の話し合いの分割についての規定
2、3項:裁判所による分割についての規定

908条(遺言の分割方法の指定及び遺産の分割の禁止)

被相続人は、遺言で、遺産の分割方法を定め、もしくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる

指定分割…被相続人が遺言により遺産分割を指定し、又は相続人以外の第三者に分割方法の指定を委託することができること。

909条(遺産の分割の効力)

遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

趣旨:(本文)遺産分割の効力について相続人保護のため遡及的な効果を与えて、遺産を被相続人から相続人が直接承継したものと扱うこと(分割宣言主義)
(但書)宣言主義を貫くことによる第三者に対する侵害に配慮し、遡及効を制限して取引の安全を図る趣旨

・「第三者」…相続開始後、遺産分割前に登場した第三者を指す。第三者が分割があったことを知っているか知らないか(善悪)は問わない。第三者が自己の権利を主張するためには登記を備える必要がある。

909条の2(遺産分割前における預貯金債権の行使)

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

趣旨:改正前民法では預貯金の払い戻しを相続人が単独で求めることは許されなかった。もっともこれを他の相続人の利害を害することのない限度において単独で預貯金債権の行使を認めることで国民の利便を企図した。(平成30年新設)

910条(相続の開始後に認知された者の価格支払い請求権)

相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

趣旨:遺産分割終了後のやり直しを避ける一方で相続後に認知された相続人の保護を図った。

・遺産の価格算定の基準は価格の支払い請求時(最判平28.2.26)

911条(共同相続人間の担保責任)

各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。

趣旨:相続人が遺産分割の結果得たもの又は権利に瑕疵がある場合に、他の共同相続人に売主と同じ責任を負担させることによって保護する。

912条(遺産の分割によって受けた債権についての担保責任)

各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。
2 弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。

趣旨:債務者の無資力によってその債権を相続により取得した相続人が一部又は全部の弁済を受けられない場合の共同相続人の責任を規定することで相続人間の公平を図った。

913条(資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担)

担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて分担する。ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。

趣旨:前2条の場合で共同相続人に資力がない者がいる場合にそのリスクを他の共同相続人に公平に負担させる

914条(遺言による担保責任の定め)

前三条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しない。

趣旨:原則前3条によって共同相続人が相続分に応じて負担するが、被相続人が担保責任について指定

相続・事業承継コラム