【相続法逐条解説⑥】民法960条~民法984条  総則・遺言の方式編

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【相続法逐条解説⑥】民法960条~民法984条  総則・遺言の方式編

1.総則

960条(遺言の方式 )

遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

●遺言は民法によって定められた方式に従う必要があります。
民法には遺言の方式として①普通方式の遺言(967条~975条)と②特別方式の遺言(976条~984条)が定められています。

961条(遺言能力)

十五歳に達した者は、遺言をすることができる。

962条

第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない。

963条

遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

●遺言を行えるのは遺言能力があるものに限られます。
遺言能力があると認められるのは、満15歳以上のものでありかつ、遺言をした時点で十分な事理弁識能力があるものとされています。

964条(包括遺贈及び特定遺贈)

遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。

965条(相続人に関する規定の準用)

第八百八十六条及び第八百九十一条の規定は、受遺者について準用する。

●遺贈とは、遺言によって遺言者の財産を無償で譲渡することをいいます。
遺贈には相続人と同様に遺言者の相続財産を割合として遺贈するケースである「包括遺贈」と、特定の財産を指定して遺贈するケースである「特定遺贈」の二つがあります(964条)。
また、相続人に関する規定である民法886条(相続に関する胎児の権利能力)と891条(子及びその代襲相続人の相続権)の規定は、遺贈の受遺者についても準用されることになります(965条)。

966条(被後見人の遺言の制限)

被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。
2 前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。

●後見の計算とは、後見人の任務が終了した後2カ月以内に行わなければならない管理の計算のことをいいます(870条)。
後見の計算の終了前に行われた、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言は、遺言者の意思ではなく遺言者の後見人の意思が介在する可能性があるため、認められていません(966条)。
なお、後見人が直系血族や配偶者、兄弟姉妹である場合には、その後見人はもともと推定相続人とみなされていたであろう状況なので、適用されません(966条2項)。

2.普通方式の遺言

967条(普通の方式による遺言の種類)

遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。

●民法960条に定められている通り、遺言は民法に規定された方式に則る必要があります。
そして民法に定められている遺言の形式には①普通方式の遺言と②特別方式の遺言があり、普通方式の遺言として民法967条に記されているように、Ⅰ自筆証書遺言(968条)、Ⅱ公正証書遺言(969条~969条2)、Ⅲ秘密証書遺言(970条~972条)の三つがあります。

968条(自筆証書遺言)

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

●自筆証書遺言とは、簡単に言うと「遺言をする人が民法の規定に則り自分で書いた遺言」のことをいいます。
自筆証書遺言は一人で手軽に書ける反面、要件等が厳格に定められており、要件を満たさない遺言は遺言としての効力を有しません。
自筆証書遺言の要件としては、遺言の全文、日付及び氏名を自書し、印を押さなければならない点があげられます。なお、遺言に添付する財産目録については、ワープロなどを用いて作成することが認められていますが、その場合でも、遺言者はその目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければなりません。
目録を含む自筆証書遺言の訂正は、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押すことによって行えます。
この訂正が要件を満たさない不備のあるものである場合であっても、遺言そのものは効力を生じ、不備のある訂正のみが無効となります。

969条(公正証書遺言)

公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

969条の2(公正証書遺言の方式の特則)

口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。この場合における同条第三号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
2 前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。
3 公証人は、前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。

●公正証書遺言とは、証人2人以上が立会いの下、公証人とともに作成する遺言のことをいいます。

公正証書遺言の具体的な手続き要件は以下の通りです
1.証人二人以上の立会いのもと
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する。
3.公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させる。
4.遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押す。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
5.公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押す。

なお、公正証書遺言の方式の特則(969条2)として、口がきけない者による遺言の場合、要件2にある「口授」を「公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、または自書によって」、に代える必要があり、要件3にある「口述」は「通訳人の通訳による申述又は自書」に代える必要があります。
また、遺言者または証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は要件3にある「読み聞かせ」を「同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝える」ことに代えることができます。
             
公正証書遺言は、遺言の原本が公証人役場に保管されるため紛失や偽造等の心配がない点や、遺言の形式に法律家(公証人)の関与があるため無効事由が発生する可能性が極めて低い点などがメリットとしてあげられます。

970条(秘密証書遺言)

秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2 第九百六十八条第三項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。

971条(方式に欠ける秘密証書遺言の効力)

秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。

972条(秘密証書遺言の方式の特則)

口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第九百七十条第一項第三号の申述に代えなければならない。
2 前項の場合において、遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。
3 第一項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第九百七十条第一項第四号に規定する申述の記載に代えなければならない。

●秘密証書遺言とは、自らが書いた署名・押印のある遺言証書を封筒に入れ証書と同じ印で押印し、それを公証人と2人以上の証人に差し出し、自己の遺言書であることと住所氏名を申述し、公証人による提出日・遺言者の申述の封筒への記載を経て、公証人・証人・遺言者の封筒への署名押印をもって成立する形の遺言です(970条)。

秘密証書遺言は、自筆証書遺言と同様に遺言書自体は自分で作成しますが、遺言書の封印や公証人の関与、公証人による封筒への日付の記載があるため、自筆証書遺言とは異なり遺言書全文の自筆や日付等の要件は定められていません。
また、秘密証書遺言は、秘密証書遺言としての要件を満たしていないものであった場合にも、その遺言が自筆証書遺言としての要件を満たしている場合には、自筆証書遺言として効力を有することになります(971条)。

秘密証書遺言には、公正証書遺言と同様に口がきけない人による秘密証書遺言の方式の特則(972条)が定められています。

973条(成年被後見人の遺言)

成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。

●遺言を行うためには、遺言時点に遺言を行うのに十分な事理弁識能力が備わっていることが必要になります。その点、成年被後見人は事理弁識能力に欠く常況にあるものとされているため、成年被後見人の行う遺言は遺言者の最終意思が示されたものであるとは言えず、通常時では成年被後見人は遺言を行うことができません。
しかし実際には、成年被後見人であっても一時的に事理弁識能力が回復し、遺言が行える状況になることがあります。そのため民法には、成年被後見人が一時的に事理弁識能力が回復した際に遺言を行える規定を設けています(973条)。
この場合において、遺言は遺言者の最終意思が示されたものである必要があるため、本当に本人の事理弁識能力が回復したのか、遺言は本当に本人の意思なのか、などについて非常に慎重な医学的判断が必要となり、医師二人以上の立会いなど、遺言に際して医師の関与が義務付けられています。

974条(証人及び立会人の欠格事由)

次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

●公正証書遺言及び秘密証書遺言を作成する場面において証人及び立会人が要される理由には、遺言の作成に公平性を保つためという目的があります。そのため、遺言者の推定相続人や受遺者、その配偶者及び直系血族、公証人に近い人物などは、証人及び立会人となることができません。

975条(共同遺言の禁止)

遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。

●民法上、複数人が共同で行う遺言は認められていません。
これは、遺言は死者の最終意思の実現が目的であり、そのためいつでも撤回できるという規定(1022条)が設けられているのに対し、共同で行った遺言の場合、撤回をおこなった際の取り扱いが不都合になることから設けられている規定です。

3.特別の方式

976条(死亡の危急に迫った者の遺言)

疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第一項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。

977条(伝染病隔離者の遺言)

伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。

978条(在船者の遺言)

船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。

979条(船舶遭難者の遺言)

船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
3 前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
4 第九百七十六条第五項の規定は、前項の場合について準用する。

980条(遺言関係者の署名及び押印)

第九百七十七条及び第九百七十八条の場合には、遺言者、筆者、立会人及び証人は、各自遺言書に署名し、印を押さなければならない。

981条(署名又は押印が不能の場合)

第九百七十七条から第九百七十九条までの場合において、署名又は印を押すことのできない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を付記しなければならない。

982条(普通の方式による遺言の規定の準用)

第九百六十八条第三項及び第九百七十三条から第九百七十五条までの規定は、第九百七十六条から前条までの規定による遺言について準用する。

983条(特別の方式による遺言の効力)

第九百七十六条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六箇月間生存するときは、その効力を生じない。

●特別方式の遺言とは「死亡危急者」や「伝染病隔離者」などといった特殊な場所・環境のもとでのみ認められる遺言の方式をいいます。
特別方式の遺言にはⅠ死亡の危急に迫った者の遺言(976条)、Ⅱ伝染病隔離者の遺言(977条)、Ⅲ在船者の遺言(978条)、Ⅳ船舶遭難者の遺言(979条)の4種類があります。
これらの特別方式の遺言は、普通方式の遺言を行えない特別な状況にあって、遺言制度を補完するために設けられた遺言方式であるため、特別方式の遺言を行った遺言者が普通方式の遺言を行える状況になった時点から6カ月生存した場合には効力が生じません。

984条(外国に在る日本人の遺言の方式)

日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う。

●公正証書遺言及び秘密証書遺言では、遺言を行う要件として、公証人の関与が求められています。
しかし、日本国外には日本の公証役場がなく公証人も当然存在しないため、公正証書遺言や秘密証書遺言を作成する際の公証人が不在になってしまいます。
そのため民法は、984条(外国に在る日本人の遺言の方式)として、日本の領事の駐在する地においては公証人の職務を領事が代わりに行うことによって、海外での公正証書遺言、秘密証書遺言を可能にしています。

相続・事業承継コラム