【相続法逐条解説③】民法915条~民法940条  相続の承認及び放棄編

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【相続法逐条解説③】民法915条~民法940条  相続の承認及び放棄編

【第4章 相続の承認及び放棄】

915条(相続の承認又は放棄すべき期間)

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

趣旨:相続の承認(相続する権利を受け入れること)
・放棄(相続する権利を喪失させること)について3ヶ月間の考慮期間を設けることで相続人を保護する反面、期限を設けることで相続債権者も保護する点
・相続の承認・放棄は相続開始前にすることができない。
・熟慮期間の起算点:死亡の事実及び具体的に自分が相続人となったことを知った時点
→被相続人に相続財産が全くないと信じる相当な理由がある場合には、相続財産の全部または一部の存在を認識したとき、又は認識し得べきとき(最判昭59.4.27)
・相続人が複数いる場合には、各相続人の認識によって起算点は異なる。

916条

相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡した時は前条第1項の期間はその者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

趣旨:相続人が死亡した場合この相続人を相続する者(第二の相続人)は第一、第二の両方を相続をすることができる(再転相続)。そして第二の相続人に相続財産の調査などについての熟慮期間を十分にさせるため熟慮期間制限の特例を設けた。

・第二相続人が死亡した相続人(第一相続人)の相続を放棄した場合には死亡した相続人が相続することができた被相続人についての相続を承認する事はできない。(被相続人についての相続、第一相続人についての相続の二つの相続についての権利がを喪失することになる)

917条

相続人が未成年者又は成年被後見人(日常的に自分の行為の結果を認識する精神能力が無い状態の者)である時は第915条第1項の期間は、その者の法定代理人が未成年者や成年被後見人に相続開始があったことを知った時から起算する

・相続人が承認、放棄する場合には通常の財産法上の行為能力(自分の行為の結果を認識できる精神的能力)が必要となる。

・被保佐人(自己の行為の結果を認識する能力が著しく低い者)については本条の適用はない。

918条(相続財産の管理)

1項 相続人は、その固有財産に置けるのと同一の注意を持って、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をした時はこの限りでない。
2項 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存のために必要な処分を命ずることができる。
3項 第27条から第29条まで(不在者の財産管理人の職務・権限・担保提供及び報酬)の規定は、本条2項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。

919条(相続の承認及び相続放棄の撤回及び取り消し)

相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。
2 前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3 前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。
4 第二項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

趣旨:相続の承認や放棄の撤回を自由に認めると、相続債権者や共同相続人、次順位の相続人等の利害関係人が熟慮期間(915条)を待たなければならず、混乱が生じる。そこで承認や放棄の効力を確定的にすることでこのような弊害を除去した。
もっとも、民法総則、親族編の取り消し規定は否定されない。

・取り消すことができる場合:行為能力制限(未成年者、被成年後見人など、行為者が自己の行為の結果を認識することが難しい状況にある者)、錯誤、詐欺・脅迫など

・取り消しは追認(事後的な承諾)できる時から6ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てをして行う必要があり、相続の放棄・承認は放棄の時から10年以内に行う必要がある。

・相続の放棄・承認について無効原因があればこの主張をすることができる(最判昭和29.12.24)

920条(単純承認の効力)

相続人は、単純承認(921条1項に規定されているような、相続することを承認する事由に該当すること)をしたときは、無限に被相続人の権利を承継する

921条(法定単純相続)

次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

趣旨:1号・2号は相続財産の処分及び熟慮期間の経過を単純承認の意思表示とみて、3号は相続人の背信行為の制裁として単純承認の効果を負わせる趣旨。

・1号 相続人が自己のために相続が開始した事実を知り、又は確実に予想しながら相続財産を処分した場合でなければ同号に該当しない。

・3号の「相続財産」には、消極財産(相続債務)も含まれる。

922条(限定承認)

相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

趣旨:本来相続人は無制限に責任を負うが、債務の過大な承継から相続人を保護するため相続財産を限度とする有限責任とする手段を相続人に与えた趣旨

・不動産の死因贈与を受けたものが限定承認をした場合、相続債権者の差押え登記よりも先に所有権移転登記をしたとしても信義則上、所有権の取得を相続債権者に対抗する事はできない。

923条(共同相続人の限定承認)

相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

趣旨:事実関係の簡明化、手続きの煩雑さを回避する趣旨。限定承認に賛成しない相続人は相続放棄をすれば良いという趣旨

924条(限定承認の方式)

相続人は限定承認をしようとする時は、第915条第1項の期間内に相続財産の目録を作成してこれを家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申し立てと陳述をしなければならない

925条(限定承認をしたときの権利義務)

相続人が限定承認をしたときは、被相続人の有していた権利義務は、消滅しなかったものとみなされる。

926条(限定承認による管理)

1項 限定承認者はその固有の財産(相続人がもともと持っていた財産)と同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
2項 第645条(受任者による報告)、第646条(受任者による受け取り物の引き渡し等)、第650条第1項及び第2項(受任者による費用の償還請求・代弁済請求)並びに第918条第2項及び第3項(相続財産の管理)の規定は、前項の場合について準用する。

927条(相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)

1項 限定承認者は、限定承認をした後五日以内に、すべての相続債権者(相続財産に存在している債務の債権者)及び受遺者(遺言によって財産を受けることになった者)に対し、2カ月以内に限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。
2項 1項の公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を加えて記さなければならない。ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。
3項 限定承認者は、知れている(限定承認について認識している)相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。
4項 第1項の規定による公告は、官報に掲載してする

928条(公告期間満了前の弁済の拒絶)

限定承認者は、前条第1項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。

929条(公告期間満了後の弁済)

第九百二十七条第一項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。

・但書きの「優先権を有する債権者の権利に」当たるというためには、対抗要件を必要とする権利については、被相続人の死亡時(相続開始時)までに対抗要件を具備していることを要する(最判平11.1.21)

930条(期限前の債務等の弁済)

1項 限定承認者は、弁済期に至らない債権であっても、前条の規定に従って弁済をしなければならない。
2項 条件付きの債権又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。

931条(受遺者に対する弁済)

限定承認者は、前2条の規定に従って各相続債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済をすることができない。

932条(弁済のための相続財産の換価)

前3条の規定に従って弁済をする場合、相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者はこれを競売に出さなければならない。もっとも、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って相続財産の全部や一部の価額を弁済することで競売を止めることができる。

933条(相続債権者及び受遺者の換価手続きへの参加)

相続債権者や受遺者は、自己の費用で、相続財産の競売、鑑定に参加することができる。この場合、第260条第2項(共有物の分割への参加)の規定を準用する。

934条(不当な弁済をした限定承認者の責任等)

1項 限定承認者は、第927条の公告、催告をすることを怠り、又は同条第1項の期間内(限定承認をした後五日以内)に相続債権者または受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。第929条(広告期間満了後の弁済)から第931条(受遺者に対する弁済)までの規定に違反して弁済をしたときも、同様である。
2項 1項の規定は事情を知って不当に弁済を受けた相続債権者又は受遺者に対する他の相続債権者又は受遺者の求償を妨げない。すなわち、他の相続債権者、受遺者はこの場合求償請求ができる。
3項 第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)の規定は、前2項の場合について準用する。

935条(公告期間内に申し出をしなかった相続債権者及び受遺者)

第927条第1項の期間内(限定承認をした後五日以内)に申出をしなかった相続債権者及び受遺者で限定承認者を認識することができなかった者は、残余財産についてのみその権利を行使することができる。ただし、相続財産について特別担保を有する者は、この限りでない。

936条(相続人が数人ある場合の相続財産の管理人)

1項 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2項 1項の相続財産の管理人は、相続人のために代わって相続財産の管理や債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3項 第926条から前条まで(限定承認による管理・弁済・責任等)の規定は、第1項の相続財産の管理人について準用する。この場合において、第927条第1項中「限定承認をした後5日以内」とあるのは、「その相続財産の管理人の選任があった後10日以内」と読み替えるものとする。

937条(法定単純承認の自由がある場合の相続債権者)

限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第921条第1号又は第3号(法定単純承認)に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、当該共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる。

938条(相続放棄の方式)

相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

相続放棄…自己のために開始した不確定な相続の効力を確定的に消滅させることを目的とする意思表示。被相続人が債務超過である場合に相続人が不利益を回避する手段として利用される。

法的性質
・要式行為(一定の方式に従って契約を成立させることを必要とする行為)
・相手方のいない単独行為(当事者の一方の一方的な意思表示によって法律効果が発生する行為)であり、受理審判によって効力が生ずる。
・相続放棄も私法上の法律行為であるから、総則規定により取り消すことができる。
・身分行為(身分関係に関する法律効果を発生させる行為)であり詐害行為取消権の対象とはならない。
・条件・期限を付すことはできない。

939条(相続放棄の効力)

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

効果:相続人は相続時に遡って相続しなかったのと同じ地位となる。
※遺産分割と異なり第三者保護規定なし。

・相続放棄の効力は何人に対しても登記なく主張できる。(最判昭42.1.20)

940条(相続放棄した者による管理)

1項 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産と同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
2項 第645条(受任者による報告)、第646条(受任者による受任物の引き渡し等)、第650条第1項及び第2項(受任者による費用償還請求・代弁済請求)並びに第918条第2項及び第3項の規定は、前項の場合について準用する。

相続・事業承継コラム