【相続法逐条解説⑤】民法951条~民法959条  相続人の不存在編

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【相続法逐条解説⑤】民法951条~民法959条  相続人の不存在編

951条(相続財産法人の成立)

相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。

●相続人がいない場合や、いるかどうかが定かでない場合には、相続財産は法人となります。
相続人不存在には大きく分けてⅠ.相続人がそもそも存在しない場合とⅡ.相続人が存在していたがその全員が相続人ではなくなった場合の二つのパターンがあります。前者には、被相続人にそもそも相続人がいないケースはもちろんのこと、被相続人の死亡以前に代襲相続人も含む相続人全員が死亡しているケースなども該当します。一方後者には、もともと存在していた相続人が全員相続放棄したケースや相続欠格、廃除などによって相続人全員が相続権を失ったケースなどが該当します。
なお、被相続人の死亡以前に相続人が死亡しているケースや、相続人が相続欠格・廃除によって相続権を失っているケースであっても、代襲相続人が存在する場合には、代襲相続人も含めたすべての相続人が不存在でない限り、相続人不存在には該当しません。

952条(相続財産の管理人の選任)

前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。

953条(不在者の財産の管理人に関する規定の準用)

第二十七条から第二十九条までの規定は、前条第一項の相続財産の管理人(以下この章において単に「相続財産の管理人」という。)について準用する。

954条(相続財産の管理人の報告)

相続財産の管理人は、相続債権者又は受遺者の請求があるときは、その請求をした者に相続財産の状況を報告しなければならない。

●相続人の存在が明らかでない場合、家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任し、公告しなければいけません(952条)。
ここにおける利害関係人には、被相続人に対する債権者や特定受遺者、特別縁故者などが含まれます。
相続財産管理人は、管理財産の保存や財産目録の作成、相続債権者や受遺者への弁済など相続財産の管理全般を行います。
また、不在者の財産の管理人に関する規定(27条~29条)は相続財産の管理人についても準用されることになります(954条)。

955条(相続財産法人の不成立)

相続人のあることが明らかになったときは、第九百五十一条の法人は、成立しなかったものとみなす。ただし、相続財産の管理人がその権限内でした行為の効力を妨げない。

956条(相続財産の管理人の代理権の消滅)

相続財産の管理人の代理権は、相続人が相続の承認をした時に消滅する。
2 前項の場合には、相続財産の管理人は、遅滞なく相続人に対して管理の計算をしなければならない。

●相続人が存在することが明らかになった場合、951条の相続財産法人は成立しなかったものとみなされます。
この際、相続財産管理人の代理権は相続人が相続の承認を行った時点で消滅しますが、相続財産管理人が権限内で行った行為の効力はそのまま認められます。

957条(相続債権者及び遺贈者に対する弁済)

第九百五十二条第二項の公告があった後二箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産の管理人は、遅滞なく、すべての相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
2 第九百二十七条第二項から第四項まで及び第九百二十八条から第九百三十五条まで(第九百三十二条ただし書を除く。)の規定は、前項の場合について準用する。

●相続財産の管理人の選任の公告(952条2)があった後、2カ月間なおも相続人が存在することが明らかではない場合、相続財産の管理人は全ての相続債権者や受遺者に対して一定期間内(2カ月以上)にその請求を申出すべき旨を公告する必要があります。この公告の後一定期間内に申し出を行った相続債権者や受遺者がいた場合、相続財産から弁済がなされることになります。
限定承認における相続債権者及び受遺者に関する規定(927条~935条)は一部を除き、本条にも準用されることになります。

958条(相続人の捜索の公示)

前条第一項の期間の満了後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産の管理人又は検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。

958条の2(権利を主張する者がない場合)

前条の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができない。

●相続債権者及び遺贈者確認の公告(957条)がなされたのち、定められた一定期間を経てもなお相続人の存在が明らかでない場合、6カ月以上の期間を定めて相続人の捜索の公告が行われます。
この期間内に相続人が見つからなかった場合、相続人不存在は確定し、相続人や相続財産管理人に知れなかった相続債権者、受遺者は相続財産に関する権利を失うことになります。

958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)

前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。

●相続人の捜索の公告(958条)がなされたのち、設定された一定期間を経てもなお相続人が現れなかった場合、特別縁故者は相続人不存在が確定してから3カ月以内に、家庭裁判所に対して「特別縁故者に対する相続財産の分与」を請求することができます。
家庭裁判所は「特別縁故者に対する相続財産の分与」の請求を受け、相当と認められると判断した場合、残余財産の全部あるいは一部を特別縁故者に分与します。

ここで特別縁故者として認められるには、Ⅰ被相続人と同一生計にあった者、Ⅱ被相続人の療養看護に努めた者、Ⅲその他特別の縁故があった者、に該当する必要があります。

959条(残余財産の国庫への帰属)

前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。

●相続人の捜索の公告の期間満了まで相続人が現れず、また特別縁故者に対する相続財産の分与を経てなお相続財産が余った場合には、その財産は国庫に帰属することになります。

相続・事業承継コラム