養子縁組による相続。養子縁組による節税はどのように行って、どのような効果があるのか?

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養子縁組による相続。養子縁組による節税はどのように行って、どのような効果があるのか?

養子縁組して税金対策をすることを考えたことはありませんか。養子縁組と一口にいってもその制度や条件がわからないという方も多いと思います。本記事では、養子縁組の制度と、相続の基準、養子縁組でどのように節税できるかをご紹介します。

■養子縁組とは

養子縁組とは、血縁関係のない養親との間で、法律上嫡出子としての身分を取得するための民法上定められた手続きをいいます。養子とは、実子(自然の血縁関係に基づく子)に対する言葉です。養子になるとその効果として、養子は養親の氏を称し、養親の親権に服し、他の嫡出子と同等の相続権を取得します。養子縁組の制度は、子の福祉のためのほか、相続税対策のために用いられることもあります。
養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2つの制度があります。まずは、二つの制度の違いについてご説明します。

●普通養子縁組とは

普通養子縁組とは、特別養子縁組ではない通常の養子縁組のことを指します。民法では「養子縁組」と表現されています。
普通養子縁組をすると、養親との間に法律上の親子関係が生じますが、実親との法律上の親子関係も残ります。養子は、2組の親を持つことになり、実親に対しても養親に対しても、第1順位の「子」として相続権を持ちます。そのため、相続のことを考えて孫を養子にする場合またはいわゆる婿養子をとる場合、再婚時に子を再婚相手の養子に入れる場合などは普通養子縁組を検討するケースが多いです。
また、普通養子縁組をするためには、民法792条以下に定められているいくつかの条件があります。例えば、養親が成年に達していることや、養子となる者が15歳未満の場合には、その法定代理人が養子縁組の承諾をすることなどです。

●特別養子縁組とは

実親と暮らすことができない子どもを、新たな家庭で養育することを目的とする養子制度を、特別養子縁組といいます。特別養子縁組によって養子になった子は民法上特別養子と呼ばれます。特別養子縁組の特徴は、普通養子縁組とは異なり、家庭裁判所の審判によって縁組が成立すること、養親は夫婦に限られること,養子は原則として15歳未満(令和2年4月の民法改正で6歳未満から上限引上げ)であること、実父母の同意を要すること、養子と実方の父母等との親族関係が終了すること、離縁は審判によるが養親側から離縁請求はできないことなどがあります。このような条件から分かる通り、特別養子縁組制度は、家庭に恵まれない子どもを新たな養親子関係の中で養育することを目的としているので、通常相続税対策で用いることはありません。本稿では、以下、「養子縁組」や「養子」というように特筆のないものは普通養子縁組制度によるもののことを指します。

■法定相続人の範囲と法定相続分

先ほどご説明したように、養子は、法律上の養親の子になることができ、法定相続人という民法上相続が認められる地位になります。養親が亡くなった場合、残された財産をどう分けるかは、相続人間の話し合いや遺言等で特段の取り決めがなければ民法の規定に従うことになります。

●法定相続人の範囲

死亡した人の配偶者は常に相続人になります。配偶者以外は、以下の第1順位から第3順位までの順序で相続人となります。
①第1順位:子。子が既に死亡している場合には、子の直系卑属が代襲相続する。
②第2順位:直系尊属(父母や祖父母など)。父母も祖父母もいる場合は父母が優先。
③第3順位:兄弟姉妹。兄弟姉妹が既に死亡している場合には、その子が代襲相続する。

●法定相続分

①配偶者と第1順位者が相続人である場合
 配偶者1/2 子(2人以上の場合は全員で)1/2
②配偶者と第2順位者が相続人である場合
 配偶者2/3 直系尊属(2人以上の場合は全員で)1/3
③配偶者と第3順位者が相続人である場合
 配偶者3/4 兄弟姉妹(2人以上の場合は全員で)1/4

(参考:国税庁|No.4132 相続人の範囲と法定相続分)
例えば、養親が亡くなった場合、養子は、第1順位の子として相続人になることができます。
なお、代襲相続とは、法定相続人が亡くなっている場合に、法定相続人の子や孫が相続人になることをいいますが、養子の場合は特別なルールがあります。
つまり、養親が亡くなってその相続を考えるとき、養子がすでに亡くなっている場合、養子の子が代襲相続できるかどうかは、養子縁組の前に出生しているかどうかで異なります。養子縁組の前に出生した子は、代襲相続はできませんが、養子縁組よりあとに出生している場合は、代襲相続をすることができます。

■養子縁組による節税

養子縁組をすると法定相続人が増えます。それにより、法定相続人の人数で相続税を計算する制度では相続税が控除されたり非課税枠が増加するなどの効果が生じ、相続税を節税することができます。

●法定相続人に含められる養子の人数

相続税の計算をするときに含められる養子の人数には制限があります。亡くなった養親(被相続人)に、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。
なお、養子であっても、特別養子、養子が養親の配偶者の実子(または特別養子)である場合は人数に関係なく全て法定相続人の数に含まれます。また養子を代襲相続する養子の直系卑属も、人数に関係なく法定相続人の数に含まれます。
(参考:国税庁|No.4170 相続人の中に養子がいるとき)

●法定相続人の人数によって節税ができる制度

法定相続人の人数を基に相続税を計算する制度を以下でご紹介します。

① 相続税の基礎控除額
相続税の基礎控除とは、一定の金額までは相続税が課されない制度をいいます。遺産の合計額が基礎控除額を下回る場合は相続税の申告・納税をしなくても良いことになります。遺産の基礎控除額は法定相続人の数で決まり、その相続税の基礎控除の計算式は「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」です。
例えば、法定相続人の数が4人の場合は、3,000万円+600万円×4人=5400万円が基礎控除額となります。つまり法定相続人の数が1人増えると基礎控除額は600万円増額することになるので、養子で法定相続人の数が増えた方が節税になることがあります。

②生命保険金・死亡退職金の非課税限度額
亡くなった方の生命保険金・死亡退職金を受け取ることは、正確にいうと相続の対象ではないのですが、みなし相続財産として相続税が課されています。しかし、生命保険金・死亡退職金には相続税の非課税限度額があり、この額を超えない限りは相続税を支払わなくても良いことになります。これも法定相続人の数によって定まります。生命保険金・死亡退職金の非課税限度額の計算式は「500万円×法定相続人の数」となり、法定相続人の数が1人増えると500万円増額する計算になります。

■養子縁組による節税のデメリット

上記の例を見ると養子縁組をすることのメリットはとても大きいように感じられます。しかし以下のようなデメリットもあります。

●相続税額の2割加算

実の孫を養子にする場合は、法定相続人の数が増える上、また子の死亡の際にかかる相続税を免れられるように思えますが、デメリットとして2割加算で相続税を払わなければいけないという税法上のルールがあります。ただしこのデメリットがあったとしても、メリットが勝る場合もあるので、専門家に計算してもらい助言を受けることが適切といえます。

●遺産分割の複雑化・紛争化

節税のために養子縁組をすることにより、法定相続人が増える結果、実子の法定相続分は減少してしまうことになりますから、相続争いに発展するケースもしばしばあります。事態が深刻化すると、家庭裁判所に遺産分割の調停や審判を求めることになります。節税のためとはいえ安易に養子縁組をするのではなく、親族間でよく話しあって慎重に手続きをする必要があります。

■まとめ

以上のように、養子縁組には税制上のメリットが多くあり、かなりの金額を節税できる可能性があります。もっとも、相続法や税法の制度は複雑で、遺産総額や実子・親族の数、誰を養子にするかによってもメリットがあるかどうかは大きく変わってきます。デメリットも踏まえ、専門家の助言を受けて慎重に判断する必要があるといえるでしょう。

相続・事業承継コラム