【相続法逐条解説⑩】民法1028条~民法1041条  配偶者の居住の権利編

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【相続法逐条解説⑩】民法1028条~民法1041条  配偶者の居住の権利編

1028条(配偶者居住権)

被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節にお
いて「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
3 第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。

本条は、配偶者居住権について定めています。配偶者居住権は今般の親族法改正によって新設された権利です。「被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた」場合であって、遺産分割(1号)もしくは遺贈(2号)によって配偶者居住権を取得するとされた場合に権利を得ることができます。その権利の内容は、相続開始時に居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利です。相続開始時に被相続人が配偶者以外の者と居住建物を享有していた場合には、配偶者居住権は成立しません(2項)。20年以上婚姻している夫婦については、903条4項が準用される結果、持ち戻し免除の意思表示が推定されることになります(3項)。

1029条(審判による配偶者居住権の取得)

遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。

本条は、審判による配偶者居住権の取得について定めています。裁判所は共同相続人全員の合意が成立している時(1号)、配偶者の希望がある場合であり、建物所有者の不利益を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があるとき(2号)に配偶者居住権を取得させることができます。

1030条(配偶者居住権の存続期間)

配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。

本条は、配偶者居住権の存続期間について定めています。基本的には配偶者の終身の間ですが(本文)、遺産分割協議や遺言で終期を定めることができます(ただし書)。期間の延長や更新は認められることはありません。

1031条(配偶者居住権の登記等)

居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。
2 第六百五条の規定は配偶者居住権について、第六百五条の四の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。

本条は、配偶者居住権の登記等について定めています。民法605条を準用しており、配偶者居住権は不動産賃借権に準じて登記します。また、民法605条の4が準用されており、居住する建物の占有を妨害する者に対しての妨害の停止や不法占拠者に対する明渡を求めることができます。

1032条(配偶者による使用及び収益)

配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。
2 配偶者居住権は、譲渡することができない。
3 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。
4 配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。

本条は、配偶者による使用及び収益について定めています。配偶者居住権は譲渡することができず(2項)、配偶者は用法遵守義務と善管注意義務を負います(1項本文)。この場合の用法は、基本的に「従前の用法に従い」とされており、現状維持的なもので足りることになります。従前居住の用に供していなかった部分を使用することは、現状維持を超えるといえますが、居住の目的に従っていれば認められることになります(1項ただし書)。また、配偶者は無断で居住建物の改築や増築、第三者への使用収益をさせることができません(3項)。配偶者が本条1項若しくは3項に違反した場合は、居住建物の所有者は相当期間を定めて是正を催告したうえで、それでも是正されない場合に配偶者居住権を消滅させることができます(4項)。

1033条(居住建物の修繕等)

配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。
2 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。
3 居住建物が修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。)、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。
ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。

本条は、居住建物の修繕等について定めています。居住建物の修繕権は、第一次的に配偶者が有し(1項)、第二次的に居住建物の所有者が有するとされています(2項)。居住建物が修繕を要する場合や居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者が所有者に対して通知義務を負います(3項)。所有者がこれを既に知っている場合(3項ただし書)や配偶者が修繕を行う場合(3項本文かっこ書)には通知は不要です。

1034条(居住建物の費用の負担)

配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。
2 第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。

本条は、居住建物の費用の負担について定めています。配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担しなければならず(1項)、「通常の必要費」の例としては小修繕にかかる費用や公租公課が挙げられます。「通常の必要費」以外の支出については、民法583条2項の準用で196条の規定に従って処理されることになります(2項)。

1035条(居住建物の返還等)

配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の
返還を求めることができない。
2 第五百九十九条第一項及び第二項並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

本条は、居住建物の返還等について定めています。配偶者は、居住建物について共有持分を有する場合(1項ただし書)を除き、配偶者居住権が消滅した場合には居住建物を返還しなければなりません(1項本文)。返還の際には、相続開始後に居住建物に附属させた者の収去権を有するとともに、収去義務を負います。もっとも、附属させた物について居住建物から分離できない場合や過分の費用を要する場合は除かれます(2項)。

1036条(使用貸借及び賃貸借の規定の準用)

第五百九十七条第一項及び第三項、第六百条、第六百十三条並びに第六百十六条の二の規定は、配偶者居住権について準用する。

本条は、使用貸借及び賃貸借の規定の準用について定めています。配偶者居住権は、終期が定められている場合の期間満了や配偶者の死亡によって終了することになります(民法597条1項、3項)。民法1032条1項と3項違反の使用収益によって生じた損害の賠償や配偶者が支出した費用の償還は、居住建物が返還された時から1年以内に請求する必要があります(民法600条)。なお、損害賠償請求件については居住建物が返還された時から1年が経過するまでは時効が完成しません。また、配偶者が第三者に居住建物を適法に使用収益させている場合には、第三者は配偶者に対して負っている債務を、居住建物の所有者に対して直接履行する義務を負うとともに、所有者は第三者に対してその権利を行使することができます(民法613条)。なお、民法1032条4項の場合を除き、配偶者居住権を合意によって消滅させたことを第三者に対抗することはできません。居住建物が全部滅失した場合やその他の事由によって使用収益することができなくなったときは配偶者居住権は消滅します(民法616条の2)。

1037条(配偶者短期居住権)

配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し若しくは廃除によってその相
続権を失ったときは、この限りでない。
一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日
二 前号に掲げる場合以外の場合第三項の申入れの日から六箇月を経過する日
2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
3 居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。

本条は、配偶者短期居住権について定めています。配偶者短期居住権とは、居住建物について無償で使用する権利のことであり、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住しており、現在も居住している場合に認められます(1項柱書本文)。配偶者が配偶者居住権を取得した場合や相続欠格および廃除によって相続権を失った場合には配偶者短期居住権を取得できません(1項柱書ただし書)。本条は1号と2号の場合で存続期間が異なるため注意が必要です。また、配偶者居住権と異なり、認められるのは「使用」であり、「収益」を目的とすることはできません。居住建物所有者は、基本的に居住建物を使用されることを受忍することになりますが(2項)、いつでも配偶者短期居住権の消滅を申入れることができます(3項)。

1038条(配偶者による使用)

配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。
2 配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない。
3 配偶者が前二項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。

本条は、配偶者による使用について定めています。配偶者は用法遵守義務と善管注意義務を負います(1項)。配偶者は無断で居住建物を第三者に使用させることはできません(2項)。本条1項・2項に違反した場合には居住建物取得者が配偶者短期居住権を消滅させることができます(3項)。

1039条(配偶者居住権の取得による配偶者短期居住権の消滅)

配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は、消滅する。

本条は、配偶者居住権の取得による配偶者短期居住権の消滅について定めています。配偶者が配偶者居住権を取得した場合は、配偶者短期居住権は消滅することになります。

1040条(居住建物の返還等)

配偶者は、前条に規定する場合を除き、配偶者短期居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅し
たことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
2 第五百九十九条第一項及び第二項並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

本条は、居住建物の返還等について定めています。配偶者短期居住権が消滅した場合は、居住建物を返還する必要があります(1項本文)。もっとも、配偶者が配偶者居住権を取得した場合(1039条)と配偶者が居住建物について共有持分を有する場合(1項ただし書)は除かれます。また、配偶者は居住建物の現状回復義務及び、相続開始後に居住建物に附属させた物の収去義務を負います(2項)。

1041条(使用貸借等の規定の準用)

第五百九十七条第三項、第六百条、第六百十六条の二、第千三十二条第二項、第千三十三条及び第千三十四条の規定は、配偶者短期居住権について準用する。

本文は、使用貸借等の規定の準用について定めています。存続期間満了前の配偶者の死亡(597条3項)、居住建物の全部滅失等(616条の2)が配偶者短期居住権の終了事由となります。損害賠償請求権と費用償還請求権の期間制限は使用貸借の規律に従います(600条)。配偶者居住権についての1032条2項、1033条、1034条が準用されます。

配偶者の居住の権利は、今般の民法改正で新設された新しい制度です。新しくできた制度でのトラブルを避けるためにも、配偶者の居住の権利でお悩みの方は、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

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