【相続法逐条解説⑨】民法1022条~民法1027条  遺言の撤回及び取消し編

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【相続法逐条解説⑨】民法1022条~民法1027条  遺言の撤回及び取消し編

1022条(遺言の撤回)

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

本条は、遺言の撤回について定めています。遺言の撤回の方式は、撤回の対象となる遺言と異なる方式でも可能です。本条との関連で問題になるのが、死因贈与について撤回ができるかという問題です。死因贈与について本条が適用されるか否かについて、判例はケースバイケースであるとされています(最判昭和47年5月25日民集26巻4号805頁、最判昭和57年4月30日民集36巻4号763頁)。また、自筆証書遺言については遺言書保管法によって保管の制度が整備されましたが、保管中の遺言書については、いつでも保管の申請の撤回を求めることができます(遺言書保管法8条1項)。この場合は、特定遺言書保管所に出頭し(遺言書保管法8条2項)、添付書類とともに撤回書を提出することになります(遺言書保管法8条3項)。

1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)

前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

本条は、前の遺言と後の遺言との抵触等について定めています。はっきりと前の遺言を撤回すると明示する1022条の場合に限らず、遺言が以前した遺言と抵触する場合は、抵触する部分について撤回したものとみなされます(1項)。遺言者の最終意思を尊重するという観点から、矛盾する内容の遺言がなされても、その遺言が無効になってしまうわけではありません。例えば、はじめの遺言では「甲土地はXに相続させる」としたが、後の新たな遺言で「甲土地はYに相続させる」としたような場合です。また遺言者が生前に遺言後に行った行為で、遺言に抵触するするものは、抵触する部分ついて撤回したものとみなされます(2項)。例えば、遺言で「乙土地はXに相続させる」としたものの、遺言した後に乙土地をYに売却した場合が挙げられます。また、「抵触する」という範囲について、最高裁は遺言者の実質的意思を考慮して以下のように広く解釈しています。「抵触とは、単に後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にとどまらず、諸般の事情により観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合も包含する」(最判昭和56年11月13日民集35巻8号1251頁)。

1024条(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)

遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。

本条は、遺言書又は遺贈の目的物の破棄について定めています。遺言書や遺贈の目的物を破棄するとその遺言を撤回したものとみなされます。本条が適用される場合か否か判断が難しいケースとして、2つの遺言書のうち、破棄しようと思ってなかった方を破棄した場合や、一部について塗りつぶした場合に「破棄」に当たるかは慎重に判断する必要があります。例えば、最判平成27年11月20日判タ1421号105頁は、遺言書全体に赤色のボールペンで斜線を引いた場合でしたが、「破棄」にあたるとされました。

1025条(撤回された遺言の効力)

前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限り
でない。

本条は、撤回された遺言の効力について定めています。遺言が撤回された場合、その撤回行為が取り消され、または効力を生じなくなった場合であっても、原則として撤回された遺言は効力を回復しません(本文)。例外的に撤回行為が錯誤・詐欺・脅迫による場合は、撤回された遺言が効力を回復することになります(ただし書)。今般の民法改正によってただし書には錯誤が追加されました。ただし書に当たる場合でなくとも、前遺言が復活する余地を認めた判例(最判平成9年11月13日民集51巻10号4144頁)があり、「遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が原遺言の復活を希望するものであることが明らかなとき」は前遺言の復活を認めるとしています。

1026条(遺言の撤回権の放棄の禁止)

遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。

本条は、遺言の撤回権の放棄の禁止について定めています。「遺言書の内容を撤回することはありません」といった約束をしても、本条によってそのような約束は効力を生じないことになります。遺言者の最終意思の実現が遺言制度の根本目的であることから、遺言の撤回権は放棄することができないとされています。

1027条(負担付遺贈に係る遺言の取消し)

負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。

本条は、負担付遺贈に係る遺言の取消しについて定めています。負担とは、法律上条件でも対価でもなく、負担が履行されないとしても遺贈はその効力を生じます。しかし、遺言者としては、負担が履行されることを事実上条件として遺贈している場合も多いことから、本条で相続人による取消を認めています。もっとも、遺言者の当初の意思に反する点や、受益者の利益が不当に害されることから、取消すためには家庭裁判所の審判が必要になります。

遺言の撤回・取消しについては判断が容易でないケースも多く、トラブルが発生した際、またトラブルを未然に防ぐという観点からは、専門家の補助は非常に有益あるといえます。遺言の撤回・取消しについてお悩みの方は、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

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