遺言の種類にはどのようなものがあるの?

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遺言の種類にはどのようなものがあるの?

相続は、時に「争族」や「争続」と呼ばれるほど、相続人間でトラブルがつきものです。このようなトラブルを避けるためには、遺言書を作成することが有効とされています。

 もっとも、遺言書の作成方法にはいくつか種類があり、どの作成方法がよいのかが分からない、とお悩みになっている方もいらっしゃるでしょう。

 そこで今回は、遺言書の種類について解説していきます。

■遺言の種類

 遺言書の種類には、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つがあります。このうち、一般的に用いられるのは、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」で、ほとんどの方が、このどちらかを選択することになるでしょう。

 そこで、以下では、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」を中心に解説していきます。

■自筆証書遺言

 自筆証書遺言とは、遺言者(遺言を行う人)が遺言書の全文、日付及び氏名を全て自分で書き、押印して作成する方式の遺言のことをいいます(民法968条)。

 現在作成されている遺言書の多くは、自筆証書遺言で作成されています。

●自筆証書遺言の特徴

 上記のように、自筆証書遺言は遺言書の全文等を自分で書かなければならず、他の人に代筆してもらったり、パソコン、タイプライター、点字器で作成したりすることはできません(なお、後述の平成30年度相続法改正を参照)。

 作成する費用や手間はほとんど掛からず、また思い立った時に誰にも知られることなく自由に作成することができるというメリットがあります。他方で、方式不備によって遺言書が無効になるというリスクが高く、また自分で保管しなければならないため、遺言書が発見されない、偽造・変造される、他人によって隠匿・破棄されるという危険性も高いのが特徴です。

 さらに、自筆証書遺言の場合、相続後は家庭裁判所で記載内容を確認する検認手続きが必要とされます(民法1004条)。検認証明書が発行されるまでには、手続きを行ってから1~2ヵ月かかることもあるので、相続が開始してもすぐに財産を分割することはできません。

●平成30年度相続法改正の影響

 平成30年に民法のうち、相続分野において重大な改正がなされました。特に今回解説する内容に合わせてご紹介すると、自筆証書遺言について、次のような改正がなされます。

自筆証書遺言の方式の緩和

自筆証書遺言の保管制度

①について

 これまで、自筆証書遺言の場合、全文や日付等は自筆で作成しなければならないのは上記の通りですが、誰にどの財産を相続させるかを特定する「財産目録」も自筆によって作成しなければなりませんでした。

 財産目録には、例えば不動産の場合、登記簿謄本に記載されているとおり(土地の場合は、「所在」や「地番」、「地目」、「地積」など。建物の場合は「所在」や「家屋番号」、「種類」、「構造」、「床面積」など)に書くことになっています。このため、特に相続財産が多い場合、財産目録を作成するのは大きな負担になっていました。

今回の相続法改正により、自筆証書遺言に添付する相続財産の全部又は一部の目録については、自筆で書く必要がなくなりました(改正民法968条2項前段)。

 そのため、不動産や預貯金などの財産の目録を作成する場合は、パソコン等による作成が認められますし、遺言者以外の者による代筆や、不動産の登記事項証明書、預貯金通帳の写し等を添付し、それを目録として使用する方法も可能です(法務省ウェブサイト参考資料参照。遺言書の訂正方法についてはこちらのリンク)。

②について

 上記のように、自筆証書遺言の場合は、紛失や偽造・変造等のリスクがありました。また、相続開始後は検認手続きを行わなければならないため、億劫に感じることもあるでしょう。

 しかし、今回の相続法改正によって、自筆証書遺言の保管制度が創設されました。これは、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」の規定に基づき、法務大臣が指定する法務局で自筆証書遺言を保管してもらえる制度です。これによって、紛失や偽造・変造等のリスクはなくなり、また検認手続きも必要なくなりました。

 同法は、2020年(令和2年)7月10日に施行されるため、この日以降に同制度を利用することができます。

このように、今回の法改正によって自筆証書遺言の問題点の多くが解消され、自筆証書遺言の使い勝手がさらによくなりました。

もっとも、方式不備による遺言者の無効というリスクは依然として存在しているため、後述のように、法律専門家のアドバイス等を受けながら作成することをおすすめいたします。

■公正証書遺言

 公正証書遺言とは、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言のことをいいます(民法969条)。

 遺言書を作成される方のうち、10~20%の方は公正証書遺言で作成するとされています。

●公正証書遺言の特徴

 公正証書遺言は、公証役場で公証人と一緒に作成します。遺言者が遺言の内容を伝えると、公証人がその内容を遺言書として書面にしてくれます。

 公正証書遺言で遺言書を作成するメリットは、方式不備等によって遺言書が無効になるリスクがほとんどないということです。また、原本は公証役場で保管されるため、紛失や偽造・変造等のリスクの心配はいりません。さらに検認手続きも不要です。

 公正証書遺言のデメリットは、作成の際に手数料がかかるということです。手数料は財産の価額に応じて、以下のように生じます。

財産の価額 手数料
100万円まで 5,000円
200万円まで 7,000円
500万円まで 11,000円
1,000万円まで 17,000円
3,000万円まで 2,3000円
5,000万円まで 2,9000円
1億円まで 43,000円
1億円超3億円まで 43,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額
3億円超10億円まで 95,000円に超過額5,000万円までごとに11,000円を加算した額
10億円超 249,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額

日本公証人連合会ホームページ(公証人手数料令第9条別表)

 また、公正証書遺言の作成には、証人2名が必要となります。未成年者や相続人は証人にはなれませんので、近親者以外で証人を見つける必要があります(証人が見つからない場合は、有料で公証役場で紹介してもらうことが可能)。証人も遺言書の内容を確認するため、相続開始前に遺言書の内容が外部に漏れる危険性があります。

●自筆証書遺言と公正証書遺言との違い(まとめ)

 自筆証書遺言と公正証書遺言の違いをまとめると、以下のようになります。

  自筆証書遺言 公正証書遺言
作成方法 遺言書の全文、日付、氏名を自筆で書く 公証役場で、遺言者が口授したものを公証人が書き留める
証人 不要 2名必要
検認手続き 必要(相続開始後) 不要
保管 本人(改正法により法務局でも可) 原本は公証役場
作成手続き 簡単 手間がかかる
費用 ほとんどかからない 財産価額に応じて手数料がかかる

■秘密証書遺言

 秘密証書遺言とは、遺言者が遺言内容を秘密にして遺言書を作成した上で、封印をした遺言証書の存在を明らかにする方法で行われる遺言のことをいいます(民法970条)。

 秘密証書遺言は、遺言の内容を誰にも知られたくない場合に用いられますが、実際に利用されることはほとんどありません。

■遺言書に関するお悩みは専門家に相談

 遺言書、特に自筆証書遺言を作成する際は、弁護士や司法書士、行政書士などの法律専門家に相談しましょう。

 遺言書は、相続トラブルを防ぐのに有効な手段とされているため、専門家に相談することで、トラブルが起きにくい内容の遺言書を作成することができます。また、より多くの財産を後世に残すため、相続税対策などの相談も合わせて行うことが出来ます。

 自筆証書遺言の場合は、方式不備等によって遺言書の内容が無効となるリスクがあるため、法律専門家にリーガルチェックをしてもらうことで、無効のリスクをなくすことができます。

 最近は、インターネットや書籍などで、遺言書の作成方法を紹介するものが増えてきましたが、オーダーメイドで最良の遺言書を作成するには、やはり専門家と一緒に作成することが一番です。相続は、相続人の人生に大きな影響を与えるものですので、慎重に考えていきましょう。

■まとめ

 以上のように、主に利用される遺言書には、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。以前までは、公正証書遺言で作成することが勧められてきましたが、平成30年度相続法改正によって、自筆証書遺言がより利用しやすくなりました。

 デリケートな内容の遺言書を作成する場合は、確実に効力が生じるようにするため公正証書遺言で作成する方がよいでしょう。法律専門家のアドバイスを受けながら作成する場合は、自筆証書遺言も一つの選択肢です。

いずれにしても、遺言書の内容によって、相続人の人生に大きな影響を及ぼす可能性があるので、遺言書は慎重に作成するようにしましょう。

相続・事業承継コラム