限定承認とはなにか?限定承認の概要から手続きまですべて説明します。

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限定承認とはなにか?限定承認の概要から手続きまですべて説明します。

被相続人が多額の借金を負って亡くなった場合は、「相続放棄」や「限定承認」で相続すれば、故人の借金の返済に追われることがありません。
こちらでは、限定承認の概要と手続きをご紹介します。

■限定承認とは

相続で得た財産を限度として、故人の借金を弁済する相続方法です。

例えば、2000万円の借金があって、500万円の家を限定承認で相続した場合は、500万円分は債権者に弁済しなければなりませんが、1500万円は弁済しなくて構わないということになります。

■メリット

・全ての借金を相続しなくてもよくなる

相続人が個人の財産も債務も全て受け継ぐ「単純承認」をした場合は、借金の方が財産より多い場合にも、相続人が自己の財産で補填して全ての借金を弁済する必要があります。
しかし、限定承認をすれば相続する債務は相続財産の限度に限られます。
債務超過になっているかはっきりせず、後から多額の借金が見つかった場合などに、不測の不利益を被るおそれがなくなります。

・どうしても受け継ぎたい財産を相続できる

同じく債務超過を理由に、「相続放棄」をした場合は、遺産を一切相続することができなくなります。
例えば、親の所有する家に住んでいる場合でも、住居や家具などを含むすべての遺産の相続を放棄して、家を出ていかなければなりません。

しかし、限定承認を行うと、相続した不動産などの財産の対価となる額を債務者に支払えば、不動産なども相続することができます。

・後から発見された財産も相続できる

相続を放棄した場合には、相続人が一切の財産や義務を受け継がないことが確定するため、後から見つかった財産については相続することができません。
限定承認をすれば、後から発見された財産についても相続することが可能になります。

・相続人の範囲が広がることを回避できる

同順位の人が全員相続放棄をすると、相続放棄をした人は初めから相続人ではなかったことになるため、次の順位の人が新たに相続人になり、相続人としての地位が広がっていきます。
したがって、故人の借金が多額である場合は、次の順位の人にも相続を放棄してもらう必要があり、手続きが煩雑になってしまいます。
そこで、限定承認をすれば、次の順位の人が相続人になることはないため、手続きを少人数で終わらせることができます。

■デメリット

・相続人全員の合意が必要である

相続放棄は一人で行うことができますが、限定承認は相続人全員で行わなければなりません。相続人のうち、1人でも反対する者がいる場合や、1人でも法定単純承認が成立してしまった場合は、限定承認を行うことができないということになります。

・手続きが複雑である

相続放棄と異なり、家庭裁判所への申述で手続きがほぼ終了とはいかず、後述するように非常に複雑な手続きをしなければなりません。
個人で行うには非常に難易度が高く、時間もお金もかかってしまうため、実際にはほとんど使用されていません。

・みなし譲渡所得税を支払う必要がある場合がある

限定承認をすると、被相続人から相続人に対して、相続開始時の日に時価で相続財産の譲渡がされたものとみなされます。そうすると、被相続人が取得した時よりもその財産が値上がりしているなど、譲渡されたとされる時価から財産の取得費などを引いて利益が出ているとみられる場合に、譲渡所得税がかかることになります。

■手続き

まずは、限定承認をすべきか判断するために、相続財産にどのような資産や負債があるのかを調査しなければなりません。

そして、限定承認には共同相続人全員の同意が必要であるため、他の共同相続人が誰なのかを調査し、共同相続人全員に連絡して協力してもらうように依頼をする必要があります。

申立てでは、「申述手続き」の後に「清算手続き」を行わなければなりません。

①申述手続き

申述人が、家庭裁判所に限定承認の申立てを行います。

●申述人

法定相続人全員が共同して行う必要があります。
相続を放棄した人は、相続人ではなくなるため、それ以外の全員が相続人となります。

●申述期間

限定承認は、自分のために相続が開始したことを知った時から3ヶ月以内に手続きをしなければならないのが原則です(民法915条)。
ただし、限定承認をすべきかどうかの判断をするための資料が集められない場合などは、3ヶ月が経過する前に「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立て」をすることで、裁判所が個別に検討した上で、延長することができる場合があります。

●申述先

故人の最終住所地(相続開始地)を管轄する家庭裁判所です。

●必要な書類

・限定承認の申述書
・財産目録
・被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本
・被相続人の住民票の除票または戸籍附票
・申述人(相続人)全員の戸籍謄本

以下の書類が追加で必要である場合があります。

※申述人が配偶者と直系尊属の場合
・被相続人の直系尊属で、相続人と同じ代及び下の代の者に死亡者がいる場合には、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本

※申述人が被相続人の配偶者のみの場合、または被相続人の配偶者と兄弟姉妹(及びその代襲者である甥姪)の場合
・被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の父母の出生地から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の兄妹姉妹で死亡している人がいる場合、その死亡者の出生地から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・代襲者としての甥姪で死亡している人がいる場合、その死亡者の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

●申述に必要な費用

・相続人1人につき、収入印紙800円分
・予納郵便切手(各裁判所によって異なるため、申立てされる家庭裁判所へ確認してください。なお,各裁判所のウェブサイトの「裁判手続を利用する方へ」中に掲載されている場合もあります。)

●審判

申述書を提出すると、家庭裁判所から照会書が送られてきます。
照会書に回答した後、裁判所に限定承認の申述を受理することが認められれば、申述受理の審判がなされます。そして、家庭裁判所から、「限定承認受理通知書」が交付されます。

②清算手続き

●公告

限定承認者は、受理審判後5日以内(財産管理人が選任された場合は選任後10日以内)に、「官報」という国が発行する機関紙で「限定承認をしたこと及び一定の期間内に債権の請求の申出をすべき旨」の公告をしなければなりません。
債権者や受遺者に対して、権利がある場合は申し出るよう、官報を通じて知らせることが目的です。
すでに判明している債権者には別途、個別に請求申出を催告する必要があります。

●相続財産の換価手続き

相続財産を売却して換価します。原則として、競売手続きによって換価処分をしていくことになります。
その際に限定承認の先買権(限定承認者に認められる、相続不動産が競売にかけられた場合に、優先的に購入する権利)を行使する場合は、家庭裁判所に鑑定人の選任申立てを行って、財産の評価額を自身の固有の財産から支払えば、取得することができます。

●債権者や受遺者への弁済

官報公告期間が満了し、換価処分が終了したら、まず、先取特権や抵当権などの優先権を持っている権利者に優先的に弁済します。次に一般債権者、その後、申出をした受遺者に弁済をします。
全債務を支払いきれない場合は、それぞれの債務額の割合に応じて按分して弁済します。

●残余財産の処理

請求申出をしてきた相続債権者と受遺者に弁済してもなお財産が残っている場合は、限定承認者が取得し、遺産分割をして受け取ります。

■まとめ

故人の借金の額が多い場合であって、借金を相続したくない場合は、相続放棄を行う方が、手続きは簡単だといえます。限定承認は手続きが煩雑で、ほとんど利用されていません。
しかし、それぞれの事情によっては、限定承認が適していることもあります。相続方法のメリットとデメリットを十分に理解して、比較しながら検討することが重要だといえます。

限定承認を行える期間は原則として3ヶ月間しかないので、その間に財産・債務を調査したり、相続人の間で話し合ったりして、専門家にも相談しながら、方針を決定する必要があります。

相続・事業承継コラム