相続放棄とはなにか?相続放棄の概要から手続きまですべて説明します。

Share on facebook
Facebook
Share on twitter
Twitter
Share on linkedin
LinkedIn

相続放棄とはなにか?相続放棄の概要から手続きまですべて説明します。

被相続人が多額の借金を負って亡くなった場合は、「相続放棄」や「限定承認」で相続すれば、故人の借金の返済に追われることがありません。
こちらでは、相続放棄の概要と手続きをご紹介します。

■相続放棄とは

相続放棄とは、故人の財産を一切相続しないという相続方法です。

相続人が個人の財産も債務も全て受け継ぐ「単純承認」をした場合は、借金の方が財産より多い場合にも相続人が全ての借金を弁済する必要があります。
すなわち、故人が膨大な額の借金を抱えている場合は、財産を全て受け継げば、故人と自分の財産を合わせても借金の返済ができない状況に陥ってしまうことになります。

そのような場合は、「相続放棄」をして、全ての遺産の相続を放棄すれば、借金を受け継がないで済みます。

■メリット

・故人の借金を返済する必要がなくなる

単純承認で相続が行われると、故人の債務について、自分が返済義務を負うことになり、債権者から返済を迫られることになります。返済が滞っていた場合は、遅延損害金も支払う必要があります。
借金の額が多すぎると、相続した財産と自分の資産を合わせても返済ができない状況に陥ってしまいます。

そのような場合は、相続放棄をすれば、故人の債権者から借金の弁済を催促されることはありません。これが最大の利点だといえます。

・相続争いに関わらなくて済む

相続を放棄すると、相続人ではなくなり、相続について一切関係がなくなるため、相続争いに巻き込まれなくて済みます。
遺産分割協議が紛糾して、家庭裁判所での調停や審判に発展してしまった場合を考えると、煩わしい手続きから解放されることができるといえます。

■デメリット

・相続財産を一切相続できない

相続を放棄をすると、故人の財産を一切相続することができません。
例えば、親の所有する家に住んでいる場合、親が死亡して相続放棄をすれば、住居や家具などを含むすべての遺産の相続を放棄して、家を出ていかなければなりません。

・新たな相続人が出てくる可能性がある

同順位の人が全員相続放棄をすると、相続放棄をした人は初めから相続人ではなかったことになるため、次の順位の人が新たに相続人になり、相続人としての地位が広がっていきます。
したがって、故人の借金が多額である場合は、次の順位の人にも相続放棄をしてもらう必要があり、手続きが煩雑になってしまいます。

次の順位の相続人が借金の存在を知らずに単純承認で相続してしまった場合などに、トラブルが発生してしまうおそれがあります。

・撤回できない

相続放棄が認められた後は、どんな理由があっても撤回することができません。
放棄した後に高価な相続財産があることが判明しても撤回することはできないため、期限内に相続財産の調査を行って、相続放棄をするかは慎重に判断しなければなりません。

■手続き

申述人が、家庭裁判所に相続放棄の申立を行います。

●申述人

相続放棄をしたい相続人です。相続人が未成年者または成年被後見人である場合は、その法定代理人が代理して申述します。

●申述期間

自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に手続きをしなければならないのが原則です(民法915条)。
ただし、この期間内に相続内容を決定できない事情がある場合には、3ヶ月が経過する前に「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立て」をすることで、延長することができる場合があります。

●申述先

故人の最終住所地(相続開始地)を管轄する家庭裁判所です。

●必要な書類

・相続放棄の申述書
申述人が20歳以上である場合
申述人が20歳未満である場合
・被相続人の住民票除票又は戸籍附票
・申述人(放棄する方)の戸籍謄本

以下の書類が追加で必要である場合があります。

※申述人が、被相続人の配偶者の場合
・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本

※申述人が、被相続人の子またはその代襲者(孫、ひ孫等)の場合
・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本
・申述人が代襲相続人(孫、ひ孫)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本

※申述人が、被相続人の父母・祖父母等の場合
・被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本
・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している者がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本
・被相続人の直系尊属で、相続人と同じ代及び下の代の者に死亡者がいる場合には、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本

※申述人が、被相続人の兄妹姉妹及びその代襲者(甥姪)の場合
・被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本
・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している者がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本
・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本
・申述人が代襲相続人(甥姪)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本

●申述に必要な費用

・収入印紙800円分
・予納郵便切手(各裁判所によって異なるため、申立てされる家庭裁判所へ確認してください。なお,各裁判所のウェブサイトの「裁判手続を利用する方へ」中に掲載されている場合もあります。)

●証明書を発行してもらう

相続放棄の申述が受理されると、裁判所から「照会書」が送付されます。
照会書は、亡くなった方の死亡をいつ知ったのか、相続放棄は自らの意思で行うものなのか、なぜ行いたいのか、などを答えるものになっています。
照会書に書かれている事項に回答し、署名押印した上で、裁判所へ返送します。

返送後、裁判所に認められれば、「相続放棄受理通知書」が交付されます。
これによって、手続きが完了します。

なお、裁判所からは「相続受理証明書」も交付してもらうことができます。
相続受理証明書は、不動産の名義変更手続き等で必要になる書類であるため、必要に応じて交付を請求します。

■相続放棄が認められなくなるケース

以下のように、単純承認をしたとみなされた場合には、相続放棄が認められなくなります。

・相続人が相続財産の全部又は一部を処分した場合
故人の預貯金の解約・払い戻しをしてしまった場合や、不動産の名義変更をした場合、遺産分割協議で合意した場合や、携帯電話等の名義変更や解約を行った場合などがあげられます。
相続放棄の申立が認められた場合であっても、その後に以上のような単純承認事由が発覚すると、相続放棄が認められなくなる場合もあります。

■まとめ

故人の借金が多額であるが、どうしても受け継ぎたい財産があって相続放棄をしたくない場合は、「限定承認」をするという手もあります。
限定承認は、相続財産の限度でしか借金を弁済しなくて構わないので、多額の借金を背負わずに大事な財産を受け継ぐことができます。
しかし、手続きが非常に煩雑であるため、実際は相続放棄が選ばれることが多くなっています。

デメリットもありますが、それぞれの事情によっては、相続放棄をすることが適切であるケースもあります。相続方法のメリットとデメリットを十分に理解して、比較しながら検討することが重要だといえます。

相続放棄を行える期間は原則として3ヶ月間しかないので、その間に相続財産・債務額の調査や、他の相続方法との比較などを行って、専門家にも相談しながら、方針を決定する必要があります。

相続・事業承継コラム