【相続法逐条解説⑧】民法1004条~民法1021条  遺言の執行編

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【相続法逐条解説⑧】民法1004条~民法1021条  遺言の執行編

1004条(遺言書の検認)

遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。

1004条は、遺言書の検認について定めた条文です。1項は遺言書を家庭裁判所に提出する義務を定めています。対象となる遺言書は公正証書を除く全ての遺言書です(2項)。遺言書の提出・検認義務を負うのは第1に遺言書の保管者であり、遺言書の保管者がない場合は相続人となります。封印のある遺言書を開封する際には、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いが必要となります(3項)。

1005条(過料)

前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。

1005条は、1004条による遺言書の開封・検認義務に違反した場合の金銭罰として過料に処すことを定めています。特に解釈上問題となる点は本条にはありません。

1006条(遺言執行者の指定)

遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。

1006条は、遺言執行者の指定について定めた条文です。指定の方法として、遺言者による遺言執行者の指定は、遺言によらなければなりません(1項前段)。指定の際の表記について、必ずしも「遺言執行者」という文言を用いていなくとも、遺言の解釈として遺言執行者の指定があったと認定される場合があります。遺言執行者に指定できる者としては、行為能力者であること以外に明文での制限はありません。法人や公証人も、遺言執行者になることができます。また、遺言執行者の指定を第三者に委託することもできます(1項後段)。指定をした場合は相続人に通知することになりますが(2項)、委託を受けた第三者は遺言執行者の指定を必ずしも強制されるわけではありません(3項)。

1007条(遺言執行者の任務の開始)

遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

1007条は、遺言執行者の任務の開始について定めた条文です。遺言執行者に指定された者は「就職を承諾」するか自由に決定することができます(1項)。承諾の意思表示は相続人に対してすることになります。遺言執行者として任務を開始する場合には、「遺言の内容」を相続人に対して遅滞なく通知する義務があります(2項)。

1008条(遺言執行者に対する就職の催告)

相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。

1008条は、遺言執行者に対する就職の催告について定めた条文です。催告権を有する「相続人その他利害関係人」とは、遺言の執行に法律上の利害関係を有する全ての人を意味します。遺言執行者が催告をされて相当の期間内に確答しない場合には、就職の承諾が擬制されることになります。

1009条(遺言執行者の欠格事由)

未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。

1009条は、遺言執行者の欠格事由について定めた条文です。未成年者または破産者は、1006条若しくは1010条によって遺言執行者となることができません。他の欠格事由は定められておらず、例えば経営能力を疑われている者なども遺言執行者になることができます。

1010条(遺言執行者の選任)

遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。

1010条は、遺言執行者の選任について定めた条文です。利害関係人の請求により裁判所が遺言執行者を選任することができ、請求なくして裁判所が選任することはできません。遺言執行者の選任が必要的なのは認知と相続人の排除およびその取消の場合に限られていますが、それ以外の場合にも被相続人の最終処分を公正に実現する手段として活用されています。

1011条(相続財産の目録の作成)

遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。

1011条は、相続財産の目録の作成について定めた条文です。遺言執行者が第一にしなければならない事務です。財産目録の内容については、相続財産の状態を具体的に明らかにすれば足ります。相続人は財産目録作成に立ち会うことができ、または公証人に作成させることもできます(2項)。

1012条(遺言執行者の権利義務)

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第六百四十四条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。

1012条は、遺言執行者の権利義務について定めた条文です。遺言執行者の訴訟法上の地位として当事者適格を有するか否かは訴訟の種類ごとで異なります。一般化すると、被相続人の意思の実現に争いがある場合で、その意思を実現する場合に限って当事者適格を有することになります。3項は、遺言執行者と相続人との法律関係を規定したものです。

1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)

遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
3 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

1013条は、遺言の執行の妨害行為の禁止について定めた条文です。相続人は、相続財産の処分や遺言の執行を妨げる行為をすることはできず(1項)、その行為は無効になります(2項本文)。もっとも、その無効は善意の第三者に対抗できません(2項但書)。なお、相続人の債権者の相続財産に対する権利行使は妨げられません(3項)。

1014条(特定財産に関する遺言の執行)

前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

1014条は、特定財産に関する遺言の執行について定めた条文です。1011条から1013条については、遺言が全ての相続財産ではなく、特定の財産にのみ表示されている場合には適用されません(1項)。特定財産承継遺言があった場合に、受益相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることも、遺言執行者の権限に含まれます(2項)。

1015条(遺言執行者の行為の効果)

遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。

1015条は、遺言執行者の行為の効果について定めた条文です。遺言者の権限内で、遺言執行者であること表示した行為については、相続人に直接効果が生じます。

1016条(遺言執行者の復任権)

遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

1016条は、遺言執行者の復任権について定めた条文です。遺言者の別段の意思表示がない限り(1項但書)、自己の責任で第三者に任務を行わせることができます(1項本文)。そしてやむを得ない事由がある場合は、相続人に対して選任と監督についてのみ責任を負います(2項)。

1017条(遺言執行者が数人ある場合の任務の執行)

遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

1017条は、遺言執行者が数人ある場合の任務の執行について定めた条文です。原則としてその任務の執行は過半数で決します(1項本文)。例外として、遺言者が別段の意思表示をした場合(1項ただし書)はその意思に従い、保存行為の場合は単独で意思決定をすることができます(2項)。

1018条(遺言執行者の報酬)

家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。
2 第六百四十八条第二項及び第三項の規定は、遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。

1018条は、遺言執行者の報酬について定めた条文です。遺言書で報酬について定めていればその額に従うことになりますが(1項ただし書)、遺言に定めがない場合は裁判所が報酬の額を定めることができます(1項本文)。

1019条(遺言執行者の解任及び辞任)

遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。

1019条は、遺言執行者の解任及び辞任について定めた条文です。解任事由に当たった例として、遺言執行者が相続人に対し、遺産目録の作成・交付・状況報告などを行わず、今後も行わない状況にあった場合の裁判例があります(大阪高決平成17年11月9日家月58巻7号51頁)。

1020条(委任の規定の準用)

第六百五十四条及び第六百五十五条の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。

1020条は、委任の規定の準用について定めた条文です。654条は委任の終了後の処分について定めており、
655条は委任の終了の対抗要件について定めており、委任の終了事由を相手方に対抗するには、相手方が終了事由があると知っているか、または相手方に通知していることが必要とされています。

1021条(遺言の執行に関する費用の負担)

遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。

1021条は、遺言の執行に関する費用の負担について定めた条文です。遺言の執行の費用としては、遺言書の検認や財産目録の作成、移転登記の費用や訴訟に関する費用などがありますが、相続財産から負担することになります。もっとも、遺留分額からこの費用が控除されることはありません(ただし書)。

遺言の執行ついては非常に専門的な知識が必要になります。遺言者の意思を円滑に実現していくためにも、遺言の執行についてお悩みの方は、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。

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