遺言を遺すメリット。なぜ専門家は遺言を勧めるのか?

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遺言を遺すメリット。なぜ専門家は遺言を勧めるのか?

遺言書がなくても問題なく相続できることもありますが、確実に円滑な相続を実現したいのであれば、遺言書を遺すことが重要になります。

遺産相続を行う方法は民法で定められており、主に二つあります。
一つは、「相続人間の協議(遺産分割協議)による承継」で、もう一つは「遺言による承継」です。前者は相続人の意思に従って遺産を分割する方法で、後者は被相続人(故人)の遺志に従って遺産を分割する方法です。

遺言書が遺されていれば、遺産分割協議は行わず、遺言書の通りに遺産を分割します。

遺言書は、「法定相続分」より優先されます。
法定相続分とは、民法に定められた分配割合です。被相続人との関係の深さを考慮して、公平になるように相続人の取り分を規定したものです。
強制力はなく、必ずしも法定相続分の通りに相続しなければならないわけではありません。

相続財産はもともと被相続人のものなので、遺言者の意思にできるだけ沿って財産を分割することは、当然のことだといえるでしょう。
ただし、一定の相続人には、「遺留分」といって、相続に際して遺産の一定の割合について法律上取得することが最低限保証されています。
遺留分に配慮した遺言書を遺すことが望ましいということについては後述いたします。

■遺産分割協議の煩雑さ

遺言書を残していなかった場合は、遺産分割協議にて相続人の間で、誰がどの財産をどれだけ相続するのか分配しなければなりません。

遺産分割の合意を成立させるには、相続放棄等をしなかった相続人全員の合意が必要です。
連絡が取れない相続人がいると、協議を行うこと自体が困難な場合があります。だからと言ってその相続人を除外して協議をしてしまうと、遺産分割協議が無効となってしまいます。

話し合いで遺産分割がまとまらなければ、家庭裁判所において、調停委員を仲介しながら遺産分割協議を行う、調停という手続きが行われます。
調停でも相続人全員の合意が得られなければ、家庭裁判所での審判を行います。
審判では、裁判所が法律にのっとって強制的に分割方法を決定します。

裁判所を通した手続きになると、調停の成立や審判までの間に何年もかかってしまうことがあります。
遺言書がないと、以上のように相続人の手続きが長期化し、煩雑になってしまいます。

また、遺産分割がまとまらない間は、遺産は相続人の間で共有している状態になり、自由に処分することはできません。
遺産の分割を巡って相続争いが長期化すると、相続人の仲が険悪になってしまう可能性があります。また、共有状態である間に相続人のうちの誰かが亡くなってしまうと、その人の相続人が共有持分権を相続することになり、関係がどんどん複雑になっていきます。

遺産分割協議が特に問題なく進行すれば相続争いに悩むことはありませんが、親族同士の仲がよくても、遺産相続のことになると必ずしも上手くいくとは限りません。

■相続争いを防止することができる

そこで、相続人の関係性をできるだけ円満に、そして相続人の負担を最小限にし、さらに被相続人の意思の通りに遺産を相続するために、遺言書を遺すことが最善の策であるといえます。

家族や親族の状況は各家庭でそれぞれであって、法定相続分の通りに遺産を分配することが必ずしも公平であるとは限りません。
そこで、遺言書では、家庭の状況に合わせた遺産の分配をすることができます。

遺言書で遺産分割の内容を定めることで、相続人の間での揉め事を防ぐことができるのが、遺言書の最大のメリットだといえます。

■特定の相手に遺産を分け与えることができる

また、被相続人が経営者であれば、会社の株式や会社の事業用に利用している個人資産等をピンポイントで相続をしなければ、会社経営の継続が困難になってしまうおそれがあります。
そのような場合、遺言書に記載しておけば、具体的な相続方法を詳細に決めることができます。

そして、相続人以外の者に遺産を分け与えたいと考えた場合は、遺言書を遺すことが重要になります。
遺言書を遺さずに相続した場合は、配偶者と血族という法定相続人が遺産を相続することになります。子が存命であれば孫には相続されません。
しかし、遺言書に相続人以外の者へ財産を遺すことを記載すれば、孫や親戚や知人へ財産を分け与えたり、また公益財団法人への寄付をしたりなど、「遺贈」をすることができます。

■相続人の手間を減らすことができる

遺言書が遺されていなかった場合、相続人全員で話し合う遺産分割協議を行わなけらばならず、手続きが煩雑であるのは先述の通りです。
遺言書を遺していれば、そのような手間をかけずに遺言書の通りに遺産を分割することで相続できるため、相続にかける労力を最小限にすることができます。

遺言書では、相続人全員に代わって遺言書の内容を実現する手続きを行うことができる「遺言執行者」を指定することができます。
本来は全員が共同して行わなければならない預貯金の払い戻しや、遺贈に基づく不動産の所有権移転登記を、遺言執行者だけで実現することができます。

遺言書は適切に作成しなければ無効となってしまう可能性があり、遺言書を遺すことは少し面倒に感じてしまうかもしれません。しかし、しっかり準備をしておけば、相続人が遺産分割で揉めるリスクが下がり、相続人が行う手続きをできるだけスムーズにすることができます。
有効な遺言書を遺すためには、専門家のアドバイスを受けることが望ましいと言えるでしょう。

相続・事業承継コラム