滅多に使わない特別方式の遺言。その内容とは?

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滅多に使わない特別方式の遺言。その内容とは?

ご自身が亡くなった後に、財産を誰に譲るか、どのように処分するかといった相続問題を、生前のうちから考えておく方が増えています。遺言をのこしておくことも、とりうる手段の一つです。遺言があれば、相続人は原則としてこれに従って遺産分割をすることになりますから、将来相続財産をめぐったトラブルを回避できることになります。ところで、遺言は、法律でいくつかの方式が細かく定められており、この方式を守らないと法的に有効な遺言として扱われません。この記事では、法律で定められた遺言の方式を、中でも一般にほとんど使われない「特別方式の遺言」についても詳しく解説していきます。

■遺言とは

そもそも遺言とはなんでしょうか。一般的には、「ゆいごん」とよぶ方が多いですが、法律用語では「いごん」と読みます。専門家に相談したら、「いごん」という単語を耳にすることも多いでしょう。
遺言に関する法律は民法960条以下に定められています。そもそも、個人の財産をどうするかは、生きている間であれば当然、ご自身が自由に決めることができます。他方、死後の財産の行方については決めることができません。そこで、遺言は、死後の財産の行方についてどうするかという意思を生前に書面で残しておき、これに従って死後の財産をめぐる法律関係を実現させることで、遺言者の最期の意思を尊重しようというものです。

遺言でなしうることも、法律上決まっています。後見人・後見監督人の指定(839、848条)、相続分の指定・指定の委託(902条)、遺産分割方法の指定・指定の委託(908条)、遺産分割の禁止(908条)、相続人相互の担保責任の指定(914条)、遺贈(964条)、遺言執行者の指定・指定の委託(1006条)、遺留分侵害額の負担の指定(1047条1項2号)、相続人の廃除、取消しなどです。少し難しい言葉が並びますが、多くの方は、相続分の指定や遺産分割方法の指定、遺贈など、財産を相続人の間でどのように分割するかを決めておくことが多いかと思います。

遺言は、遺言者の死後の法律関係を定める意思表示であり、遺言者の死亡によって一定の法律効果を発生させます。このように法的な効力を持つ重要な書面なので、どのような方式でも認められるというあいまいなものではなく、法定の方式を守らないと有効にならないとされているのです。

■遺言の方式

先ほどご説明したように、遺言は、法定の方式を守らなければ有効に取り扱われません。
そして、法定の方式は、普通方式遺言(民法967条本文)と特別方式遺言(967条ただし書)に大きく分けられています。

普通方式遺言は、自筆証書遺言(968条)、 公正証書遺言(969条)、秘密証書遺言(970条)の3種類です。
特別方式遺言は、危急時遺言と隔絶地遺言に分かれ、危急時遺言は「死亡の危急の迫った遺言(976条)」、「船舶遭難者の遺言(979条)」の2種類、隔絶地遺言は「伝染病隔離者の遺言(977条)」、「在船者の遺言(978条)」の2種類と、計4種類があります。
単語から見ても読み取れるように、特別方式の遺言は、緊急事態により突然遺言を残さねばならない状況になったときなど、緊急時に認められたものです。そのため、めったに使われることはありませんが、もしものときに備えて、特別方式遺言について知っておくことが望ましいといえます。以下では、特別方式遺言について詳しくご説明いたします。

■特別方式遺言

ここでは、「死亡の危急の迫った遺言」、「船舶遭難者の遺言(979条)」「伝染病隔離者の遺言(977条)」、「在船者の遺言(978条)」の4種類について解説していきます。
前提として4つの特別方式遺言に共通するのは、普通方式遺言と比べると要件が緩和されており、簡単な方法で遺言が認められているという点です。これは、緊急時には厳格な要式の遺言を残すことが見込めないことが考慮されています。一方で、その緊急事態を乗り越え、命が助かりそれから6ヶ月生存している場合は、遺言は無効とされます。普通証書遺言に期限はありませんので、この点は大きな違いであるといえます。

●死亡の危急の迫った遺言(一般危急時遺言、976条)

この遺言は、ケガや病気により死が迫っている場合に使うことができます。3人以上の立会いのもと、口頭で言い伝え、立会人(証人)がそれを筆記し、筆記した内容を他の証人と遺言者に読み聞かせて承認と署名・押印をもらうことで、遺言が成立します。通常の遺言は口頭ではできないのに対し、この場合は口頭で伝えることで作成ができる点でより簡単な手続きであるといえます。
一方で、証人が3人以上必要であり、また相続人などの利害関係人は証人になれないという点で難しさもあります。またこの遺言は、遺言の日から20日以内に家庭裁判所の確認を経なければ効力が生じません。

●船舶遭難者の遺言(難船危急時遺言、979条)

この遺言は、船や飛行機に乗っているときに事故などで遭難した場合に使うことができます。2人以上の立会いのもと、口頭で遺言することが認められています。証人はそれを筆記し署名押印をした上で、これを家庭裁判所で確認をしてもらうことで効力を生じます。一般危急時よりも、緊急性が高いことから、証人は2人でよく、また署名押印ができない場合は、できない理由を付記すればそれでも構わないことになっています(981条)。また、家庭裁判所の確認期限もありません。ただし、このような緊急事態にどれほど遺言を残す人と、証人となる人がいるのかという問題があり、使う場面はめったにないものといえます。

●伝染病隔離者の遺言(一般隔絶地遺言、977条)

これは、伝染病のために隔離されていて、移動ができない状態の人に認められている遺言です。また、法律上、「伝染病のため」という指定がありますが、伝染病に限らず一般社会との交通が事実上または法律上自由になしえない場合に認められていて、暴動や、戦争(国家紛争)、クーデター、自然災害による被災などでも行うことができます。本人が作成し、警察官1人と証人1人以上の立会いがあり、それぞれの署名・押印が必要です。署名・押印ができない場合は、その理由を付記すればなくても構いません。裁判所の確認は不要です。
近年は、新型コロナウイルスの影響や、自然災害の多発などで誰でも伝染病隔離や被災孤立に遭う可能性がありますから、万が一のために押さえておくと役に立つ遺言かもしれません。

●在船者の遺言(船舶隔絶遺言、978条)

航海や漁業など長期間船の上におられ、陸地から離れている方の使える遺言です。この遺言は、比較的短時間である飛行機搭乗者は使うことができません。
この遺言は、船長または事務員と、証人2人以上の立会いがあれば作成することができ、全員の署名・押印が必要です。この場合も、署名押印ができない場合はその旨を付記すればなくてもよく、裁判所の確認は不要です。

■補足:普通方式遺言

以上では、特別方式遺言についてお伝えしましたが、通常は普通方式遺言を使うことが一般的です。
普通方式遺言を簡単に説明すると、まずもっともオーソドックスな遺言は自筆証書遺言(968条)になります。これは、遺言者本人の手書きによってしか作成できません(近年の改正で、財産目録のみ代筆、パソコンやワープロによる作成が認められました)。内容も細かく定められていて、必要な記載事項が抜けていると無効になってしまいます。記載事項や押印が抜けていても、遺言が無効になります。

公正証書遺言(969条)とは、遺言者が口頭で話した内容を、法務局等の公証人が書き留めて作成する遺言です。公証人に作成してもらえるためミスがなくなりますし、公文書となりますから裁判などでも強い証明力を持ちます。もっとも、費用面や手続きの煩雑さというデメリットもあります。

秘密証書遺言(970条)というのは、内容を見せずにその存在を公証人に確認してもらう遺言です。しかしその遺言の有効性などは担保されないため、現在はあまり使われていません。

■まとめ

特別方式遺言を中心に、遺言の7つの方式について解説しました。特別方式遺言は、普通方式遺言より簡単な手続きであるとはいえ、それでも難しい手続きであることがお分かりいただけたかと思います。
遺言をお考えの方であれば、普通方式の遺言をすることが通常です。法定の事項を守らないと無効になってしまいますから、専門家のアドバイスをもとに作成するのが安心です。もし遺言をお考えの方は、専門家に相談し普通方式の遺言を作成するもの良いでしょう。

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