相続廃除と相続欠格。似て非なる2つの違いとは?

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相続廃除と相続欠格。似て非なる2つの違いとは?

民法には、「法定相続人」の定め、すなわち、誰が相続人となるのかについてのルールがあります(民法887~890条)。
つまり、相続人はルールにしたがって、自動的に決定されるということです。

もっとも、反対に「こういう人は相続人とはならない」というルールも存在しています。また、当然にこのルールには当てはまらないものの、相続人とはしたくないという場合も考えられるでしょう。

このような制度を、「相続欠格」「相続廃除」といいます。
では、それぞれどのような制度なのかを見ていきましょう。

■相続欠格

●制度の概要

相続欠格とは、被相続人の意思に関係なく、一定の事由がある場合に法律上当然に相続権がはく奪されるという制度です。

●欠格事由

次の事由(891条1号~5号)に該当する場合には、その者は当然に相続権を持たないことになります。

・故意に被相続人または先順位もしくは同順位の相続人を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために刑を処せられた者(1号)
・被相続人の殺害されたことを知って、告発・告訴しなかった者(2号)
・詐欺/強迫によって、被相続人に、相続に関する遺言の作成/撤回/取消し/変更を妨げた者(3号)
・詐欺/強迫によって、被相続人に、相続に関する遺言の作成/撤回/取消し/変更をさせた者(4号)
・相続に関する被相続人の遺言書を偽造/変造/破棄/隠匿した者(5号)

●欠格の手続き

相続欠格については、廃除の場合と異なり、審判手続等がありません。考えられる方法としては、欠格事由があると思われる相続人に対して、他の相続人は、相続開始後に、相続人の地位不存在確認訴訟を提起するなどが考えられます。

●欠格の効果

相続欠格事由が存在する場合には、相続人としての資格を当然に失います。この効果は、①欠格事由が相続開始前に生じた場合には、その時から、②相続開始後に判明した場合には、相続開始時に遡って、生じます。
したがって、②の場合には、既に欠格者が遺産を相続していることが考えられます。この場合、相続回復請求(884条)をすることになります。

●欠格の宥恕

相続欠格の制度には、相続による財産取得秩序を乱して、違法に利益を得ようとする行為をした者に対する民事上の制裁という公益的な側面があります。そのため、被相続人の意思のみによって欠格の効果を消滅させる(欠格者の宥恕)という規定はありません。
しかし、裁判例の中には、欠格者の宥恕を肯定するようなものもあるといわれています(広島家呉支審平成22年10月5日家月63巻5号62頁)。

■相続廃除

●制度の概要

ある相続人について、相続資格を当然に否定されるほどの重大な事由がないとしても、その者に財産を相続させたくないと思うのももっともであるといえるような事由がある場合には、被相続人の意思に基づいて、家庭裁判所がその相続人の相続権をはく奪するという制度です(892条、893条)。

●相続廃除の対象となる者

相続廃除が意味を持つ場面は、相続人となるべき者のうち「遺留分を有する者」を排除の対象とする場合であるといえます。
そもそも、被相続人は、ある相続人に財産を相続させたくないと考えた場合には、生前の処分や遺言による処分をすることが考えられます。もっとも、その相続人が被相続人の配偶者や直系卑属/尊属である場合には、遺留分権利者となります(1042条)
そうすると、この場合には生前の処分や遺言による処分は意味をなさないことになります。
そのため、廃除の対象となるのは、遺留分を有する者に限られるといえることになります(892条)。

●廃除事由

相続廃除のためには、一定の事由に該当する必要があります。
法律上、廃除事由は①被相続人に対して虐待や重大な侮辱を加えたとき、②相続人にその他の著しい非行があること、の2つがあります。
これらは、客観的に見て、被相続人と相続人との間の信頼関係が破壊されたと評価し得るものであることが必要であるといわれています。
そうであっても、被相続人にも責任があるといえる場合(相続人の行為が被相続人によって誘発された等)には、廃除が認められないとした裁判例があります(東京高決平成8年9月2日家月49巻2号153頁)。

●廃除の手続き

相続廃除のためには、①被相続人が生前に家庭裁判所に請求する(892条-生前廃除)か、遺言で排除の意思を表示する(893条-遺言廃除)必要があります。

遺言によって排除をする場合には、被相続人の死後に、遺言執行者が遅滞なく排除の申立てを行います。そして、遺言の内容が排除の趣旨か否かが問題となる場合があるため、注意が必要です。具体的には、ある相続人に「相続させない」とか「財産を与えない」旨の遺言は排除の趣旨とは限らないといえる可能性があります。

●廃除の効果

生前廃除の場合、廃除の審判が確定すると、被廃除者はその時から相続権を失うことになります。この場合、戸籍によって公示されることになります(戸籍法97条)。

遺言廃除の場合、被廃除者は、相続開始時に遡って相続権を失います(893条後段)。排除の申立て後に相続が開始し、その後に排除の審判が確定した場合であっても、廃除の効果は相続開始時に遡って生じます。

●廃除の取消

廃除は、欠格と異なり、被相続人の意思に基づいて相続人の相続資格をはく奪する制度です。そのため、被相続人は、被廃除者の相続資格を回復させたいと考える場合には、家庭裁判所の審判によって、廃除を取り消すことができます(894条1項)。

相続・事業承継コラム