法定後見制度には3種類ある?判断能力が衰えたときに利用できる法定後見制度の種類について。

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法定後見制度には3種類ある?判断能力が衰えたときに利用できる法定後見制度の種類について。

■法定後見制度とは?

認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分になってしまうと、不動産や預貯金などの財産を管理したり、介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結ぶなどの日常取引を行ったりする必要がある場合に、自ら適切に行うことが難しくなってしまうことがあります。

「法定後見制度」とは、このような判断能力が不十分な方々が被害にあわないように、本人の権利を法律的に保護・支援する制度です。

■法定後見制度の3種類

法定後見制度は、本人の判断能力が低下してから申し立てる制度です。本人の判断能力が低下する前に事前に代理人を決めておく制度には、「任意後見制度」があります。

法定後見制度は、「後見」「保佐」「補助」の3種類があり、本人が有する判断能力の程度に応じて、制度を選べるようになっています。

法定後見制度では、家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、本人が同意を得ずにした不利益になる法律行為を後から取り消したりすることによって、本人を保護・支援します。

  後見 保佐 補助
対象となる方 判断能力が全くない方 判断能力が著しく不十分な方 判断能力が不十分な方
申立てができる方 本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長など(※1)
成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)の同意が必要な行為   - 民法13条1項所定の行為(※2)( 日常生活に関する行為は除く)(※3) 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(民法13条1項所定の行為(※2)の一部)( 日常生活に関する行為は除く)(※1)
取消しが可能な行為 日常生活に関する行為を除く、法律行為 民法13条1項所定の行為(※2)( 日常生活に関する行為は除く)(※3) 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(民法13条1項所定の行為(※2)の一部)( 日常生活に関する行為は除く)(※1)
成年後見人等に与えられる代理権の範囲 財産に関するすべての法律行為 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(※1) 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(※1)
(※1)  本人以外の者の請求により、保佐人に代理権を与える審判をする場合、本人の同意が必要になります。補助開始の審判や補助人に同意権・代理権を与える審判をする場合も同じです。
(※2) 民法13条1項には、借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築・改築・増築などの行為などの行為が挙げられています。
(※3)  家庭裁判所の審判により、民法13条1項所定の行為以外についても、同意権・取消権の範囲を広げることができます。

■法定後見の開始方法

本人の判断能力が不十分になったら、法定後見制度を開始するために、成年後見・保佐・補助の申立てを行います。

申し立てる裁判所は、判断能力が不十分になった本人の住所地の家庭裁判所となります。

申立ての際は、申立書類や、戸籍謄本・住民票、医師の診断書等を提出する必要があります。

申立書類や提出書類は家庭裁判所によって異なるため、申立先の家庭裁判所のホームページをご覧になり、問い合わせていただく必要があります。

申立ての際に書類を提出するだけでなく面接日を予約します。

事実調査や確認のために、本人、申立人、成年後見人候補者として記載した人が家庭裁判所に呼ばれて、調査官から細かな事情を聞かれます。

この際に、必要と認められる場合には精神鑑定が行われることもあります。

鑑定や調査が終了した後に、家庭裁判所は、成年後見等の開始の審判をするとともに最も適任と思われる方を成年後見人等に選任します。保佐開始や補助開始の場合には、必要な同意権・取消権や代理権の範囲も定めます。

審判の結果については、後見等開始の審判書が郵送され、その旨が登記されます。登記については家庭裁判所が法務局に嘱託するため、ご自身で行う必要はありません。

■法定後見人になれる人

成年後見人等には、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家がなることが多くなっています。

親族等が成年後見人等になろうとする場合、特別な資格は必要ありませんが、民法847条に定められる欠格事由に該当していない必要があります。

第847条【後見人の欠格事由】

次に掲げる者は、後見人となることができない。

一 未成年者

二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人

三 破産者

四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族

五 行方の知れない者

ただし、欠格事由に当てはまらない場合でも、希望の通りの成年後見人が選任されるとは限りません。

本人の財産が大きい場合や、本人が賃貸用マンションを所有していて賃料収入があると一定の事業収入がある場合、後見人等候補者と本人の間に利害対立がある場合などは、後見人が本人のために代理権等を行使しない可能性があるとして、家庭裁判所が成年後見人として適任ではないと判断する可能性があります。

そのような場合は、第三者の弁護士や司法書士等の後見人が選ばれることになります。

また、財産管理面ではなく、身辺の世話や介護等の面で、親族が後見人となるのが難しい場合には、社会福祉士等が選ばれることがあります。

■法定後見人の仕事内容

成年後見人の仕事には、財産管理と身上監護の2つがあります。

身上監護といっても、実際に介護をするのは介護施設などでもよく、成年後見人が直接本人の介護をしなければならないわけではありません。

・最初の仕事

まず成年後見人の登記事項証明書を取得します。これが後見人の資格を証明してくれるため、後見人の仕事をするために必要になります。

銀行や保険会社等に、今後は後見人が財産管理を行うことを知らせるために、後見人が就任した旨を届け出る必要があります。

家庭裁判所へ提出する財産目録の作成にあたって、本人の資産状況の把握をします。本人の持っている不動産、銀行・郵便局の預貯金・借入金、株式・有価証券、車や高価な動産、加入している保険などを把握する必要があります。

本人の年間・月間の収入を把握して、医療費や税金などの決まった支出を見積もります。その上で中長期的な見通しに立って、今後の本人の収支の予定、生活プランを立てます。

調査が終わったら財産目録と年間収支報告書を作成し、証拠となる通帳や取引残高報告書などのコピーを添付して、家庭裁判所に提出します。

・日常の仕事

①財産管理

預貯金や現金、車や不動産などの本人の財産の管理をします。

預貯金や必要費用の財産管理の際には、本人と自分の財産をしっかり区別します。例えば、日用品を本人のために購入するのと同時に自分のものを購入する場合は、レシートを分けてもらうのが望ましいといえます。

②身上監護

身上監護として、医療や介護の契約を行います。

本人を訪問して、健康状態などに変わりはないか見守ることが必要です。

入院や通院が必要な場合は病院との間で手続きを行い、介護サービスを受ける場合は介護サービス事業者との契約をします。

本人を介護施設に入所させることが必要である場合は、施設を探して施設の入所手続きをします。施設に入所してからも施設での本人への対応の様子を監視する必要があります。

③家庭裁判所への報告

また、家庭裁判所に、業務内容を年に1回程度報告する必要があります。報告の際には、後見等事務報告書、財産目録、通帳のコピー等の証拠資料を家庭裁判所に提出します。

重要な財産の処分、遺産分割、財産管理の方針を大きく変更する時などは、その都度家庭裁判所への報告が必要になります。

・最後の仕事(終了)

本人が死亡したら、遺産を確定して相続人に報告し、同時に家庭裁判所へも報告します。

相続人に対し財産の引き渡しをして、成年後見等終了の登記をします。

以上のように、ご自身で後見事務を行う場合には、先述の通り多岐にわたる事務を行わなければなりません。

また、申立ての際の書類の作成や添付資料の収集なども煩雑な手続きです。

煩雑な手続きを避け、将来トラブルが起こりうるリスクを抑えるために、法定後見人を専門家に依頼することが多くなっています。

成年後見制度は一長一短の制度であるため、他の制度と比較しながら十分に検討しなければなりません。お困りの場合は、専門家に相談されることも一つの手だといえます。

相続・事業承継コラム