遺言作成と同時に行うことが多い成年後見制度の活用。そもそも成年後見制度ってなに?

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遺言作成と同時に行うことが多い成年後見制度の活用。そもそも成年後見制度ってなに?

■成年後見制度とは?

認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な方々は、不動産や預貯金などの財産を管理したり、介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結ぶなどの日常取引を行ったりする必要がある場合に、自ら適切に行うことが難しい場合があります。

また、自分にとって不利益といえる契約であるのに、騙されて契約を結んでしまう恐れもあります。

「成年後見制度」とは、このような判断能力が不十分な方々が被害にあわないように保護し、支援する制度です。

■成年後見制度の種類

成年後見制度には、「任意後見制度」と「法定後見制度」という、大きく分けて2つの制度があります。

・任意後見制度

任意後見制度とは、将来、判断能力が低下して保護を受ける必要が生じる場合に備えて、あらかじめ誰かに代理を委ねておくことを認める制度です。

選ばれた代理人(任意後見人)は、本人の判断能力が低下した後に、本人と合意した事項について本人を代理することによって、本人の意思にしたがった適切な保護・支援をすることが可能になります。

あらかじめ、公証人役場で、公正証書での任意後見契約を結ぶ必要があります。

・法定後見制度

もっとも、全ての方が万一の場合に備えるとは限りませんし、任意後見制度で本人が定めた保護方法が適切でなくなることもあります。

そこで、法律で定められた保護制度として、法定後見制度が用意されています。

法定後見制度は、本人の判断能力が低下してから申し立てる制度です。「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれており、本人が有する判断能力の程度に応じて、制度を選べるようになっています。

法定後見制度では、家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、本人が同意を得ずにした不利益になる法律行為を後から取り消したりすることによって、本人を保護・支援します。

  後見 保佐 補助
対象となる方 判断能力が全くない方 判断能力が著しく不十分な方 判断能力が不十分な方
申立てができる方 本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長など(※1)
成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)の同意が必要な行為   - 民法13条1項所定の行為(※2)( 日常生活に関する行為は除く)(※3) 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(民法13条1項所定の行為(※2)の一部)( 日常生活に関する行為は除く)(※1)
取消しが可能な行為 日常生活に関する行為を除く、法律行為 民法13条1項所定の行為(※2)( 日常生活に関する行為は除く)(※3) 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(民法13条1項所定の行為(※2)の一部)( 日常生活に関する行為は除く)(※1)
成年後見人等に与えられる代理権の範囲 財産に関するすべての法律行為 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(※1) 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(※1)
(※1)  本人以外の者の請求により、保佐人に代理権を与える審判をする場合、本人の同意が必要になります。補助開始の審判や補助人に同意権・代理権を与える審判をする場合も同じです。
(※2) 民法13条1項には、借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築・改築・増築などの行為などの行為が挙げられています。
(※3)  家庭裁判所の審判により、民法13条1項所定の行為以外についても、同意権・取消権の範囲を広げることができます。

■それぞれの後見開始の申立ての方法と手続きの流れ

・任意後見制度

本人の判断能力が不十分になってきたら、任意後見制度を開始するために、任意後見監督人選任の申立てを行います。

任意後見監督人とは、本人が選んだ任意後見人が適正に仕事をしているかをチェックする第三者です。

家庭裁判所に、申立てに必要な書類を提出すると、審査が行われます。事案に応じて、本人調査、受任者調査、精神鑑定などが行われます。

審査の結果、任意後見監督人を選任した旨(または却下する旨)の審判書が郵送され、後見監督人が選任された旨が登記されます。

その後は、任意後見人が任意後見契約に記載した通りに本人を代理し、任意後見監督人が後見事務を監督します。

・法定後見制度

本人の判断能力が不十分になったら、法定後見制度を開始するために、成年後見・保佐・補助の申立てを行います。

申立てには、申立書類や、戸籍謄本・住民票、医師の診断書等が必要になります。

申立ての際に、申立て先の裁判所に電話をして、面接日を予約します。

事実調査や確認のために、本人、申立人、成年後見人候補者として記載した人が家庭裁判所に呼ばれて、調査官から細かな事情を聞かれます。

この際に、必要と認められる場合には精神鑑定が行われることもあります。

調査や鑑定が終了した後に、家庭裁判所は、成年後見等の開始の審判をするとともに最も適任と思われる方を成年後見人等に選任します。保佐開始や補助開始の場合には、必要な同意権・取消権や代理権の範囲も定めます。

審判の結果、後見等開始の審判書が郵送され、審判内容が登記されます。

その後は、本人の死亡等によって後見等が終了するまで、成年後見人等は行った後見事務の内容を随時家庭裁判所に報告しなければなりません。

■法定後見制度と任意後見制度の違い

・本人の意思の反映

法定後見の場合は、本人の判断能力が低下していることを不安に感じた親族が申立てをして、後見が開始されるケースがほとんどだといえます。

そして、判断能力が著しく低下した場合は、日常生活に関する行為以外の、ほとんど全ての行為について、行為能力が制限され、本人の意思の反映が難しくなってしまいます。

しかし、任意後見であれば、判断能力が低下する前に、契約で具体的な保護・支援の内容を決定できるため、比較的本人の意思の反映がされやすいといえます。

・法定後見制度の注意点

任意後見制度と異なる法定後見制度の注意点として、あくまでも被後見人等の財産の保護が求められていることから、積極的に財産を増やすことは認められにくいことです。

したがって、投機や積極的な資産運用をすることや、相続税対策としての贈与を行うことなどは認められません。

任意後見制度であってももちろん無制限ではありませんが、任意後見契約の代理権の内容に定めておくことで、可能になる場合があります。

・任意後見制度の注意点

法定後見制度と異なる任意後見制度の注意点としては、取消権がないことがあります。

法定後見の場合は、権限に取消権があれば、本人が騙されるなど不利益になる契約を結んでしまった場合でも、日常生活に関する行為でなければ、成年後見人等が取り消すことができます。

しかし、任意後見には取消権をつけることができないため、本人が判断能力の欠如によって、不利益になる取引をしてしまうという事情がある場合には任意後見制度では限界があります。

また、任意後見人の代理権は、任意後見契約に記載した代理権に限られることにも注意が必要です。

このように、契約していた任意後見制度では不十分になった場合には、任意後見を終了し、法定後見への変更を考えなければならないことがあります。

以上のように、法定後見制度と任意後見制度は、判断能力が不十分になった方を保護・支援する制度であり、利用目的や方法によっては非常に有効です。

しかし、その分財産を積極的に自由に運用することが難しくなり、本人やご家族に負担がある制度であることも事実だといえます。

成年後見制度は一度開始すると自由に中止することができないため、利用にあたっては、専門家に相談するなどして、十分に検討されることをおすすめいたします。

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