【相続法逐条解説①】民法882条~民法895条

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【相続法逐条解説①】民法882条~民法895条

【第1章 総則】

882条(相続開始の原因)

相続は、死亡によって開始する。

「開始」とは、相続によって生じる法律効果が発生することをいう。
「死亡」とは、自然死亡と失踪宣告などの擬制死亡の2つが含まれる。

883条(相続開始の場所)

相続は、被相続人の住所において開始する。

884条(相続回復請求権)

相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする

・趣旨:相続による承継が観念的なものであるため、真正の相続人でない者が真正の相続人の権利を侵害することがある。そこで真正の相続人と真正でない相続人との取引をした第三者との利害の調整を図るために本条が規定された。

・法的性質:形成権(一方的な意思表示で法律効果を発生させる権利)ではなく請求権(相手に対して一定の請求ができる権利)であるが、そうであるとしても個別的請求権の集合にすぎないのか(集合権利説)、独立した特別の請求権なのか(独立権利説)に争いがある。

・原告としての地位を有する者:遺産の占有を失っている真正相続人である(最判昭和39.9.19)。真正相続人の相続人(例えば相続人の子供など)は相続回復請求権の行使をすることはできない。

・被告としての地位を有する者:表見相続人(真正相続人でないのに真正相続人かのように相続財産を占有している者)、共同相続人(共同して相続人となっている者)

・「相続権を侵害された事実を知」るとは、相続が開始したことを知ることのみならず自身が真正相続人であることを知り、さらに自身が相続から除外されていることを知ることまでを指す。

・「20年を経過したとき」について、学説上は除斥期間(一定期間が経過すると当然にその権利が消滅してしまうという効果を発生させる期間)とする見解が有力だが、判例は時効期間(一定期間が経過しても当然に権利が消滅するのではなく、時効期間が経過していることを当事者が主張することでその効果が発生する期間)としている(最判昭23.11.6)
※相続回復請求権は相続開始前に放棄することができない。(大判昭13.7.26)

885条(相続財産に関する費用)

相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。ただし、相続人の過失によるものはこの限りでない。

支弁…支払いをすること。
過失…注意すべき義務があったのにこれを怠ったこと。

【第2章 相続人】

886条(相続に関する胎児の権利能力)

胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。

887条(子及びその代襲者等の相続権)

1項 被相続人の子は、相続人となる。
2項 被相続人の子が、相続開始前に死亡したとき、または相続人の欠格事由(891条)の規定や廃除の規定に該当して相続する権利を失ったときは、その者の子が代わって(代襲して)相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者はこの限りでない。
3項 2項の規定は、相続人に代わって相続した代襲者が、相続の開始前に死亡又は相続人の欠格事由(891条)の規定に該当し、若しくは廃除によって、相続人に変わって相続する権利を失った場合に準用する。

代襲相続:被相続人の死亡以前に相続人となるべき子、兄弟姉妹が死亡し、廃除され、欠格事由があるため相続権を失った場合にその者の直系卑属がその者に代わって相続分を相続することをいう。

代襲相続の趣旨:相続権を失った者が相続していたら自身もそれを承継できたであろうという直系卑属の期待を保護するために規定された。

代襲原因:相続前の死亡、欠格、廃除に限定される。相続放棄の場合は代襲原因とならない。

被代襲者:被相続人の子、兄弟姉妹。直系尊属や配偶者は代襲相続できない。相続開始と同時に死亡したものも代襲相続者となる。

888条 削除

889条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)

次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹

2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

1項1号
・より近い親等の直系尊属が一人いる場合にその者が直系尊属となる。その者よりも遠い親等の者は相続人となることができない。
・協議離婚(話し合いによる離婚)の際に一方を親権者とした場合であっても、他の一方は親権を失うが相続権は失わない。
2号 被相続人の兄弟姉妹
2項 子の代襲者の相続権(887条2項)の規定は、889条1項第2号の場合について準用される

890条(配偶者の相続権)

被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

・内縁関係にある者は含まれない。
・相続人の順位
①血族相続人(親、祖父母などの直系尊属、子、孫などの直系卑属、兄弟姉妹などの傍系血族)のうち相続開始時に生存する最先順位の者が相続人となる
②配偶者は常に相続人となる

891条(相続人の欠格事由)

次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

891条はいかに掲げるものは相続人となることができないことを規定した。
1号 意図的に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡させ、または死亡させようとして刑に処せられた者
2号 被相続人が殺害されたことを知っていたが、これを告発、告訴しなかった者。ただし、その者が是非の判断のできないものであったり、殺害者が自己の配偶者、直系血族であったりした場合にはこの限りでない。
3号 詐欺や脅迫によって、被相続人が遺言をすること、遺言を撤回すること、遺言を取り消すこと、又は遺言の変更することを妨げた者
4号 詐欺又は脅迫によって、被相続人に遺言をさせ、遺言の撤回をさせ、遺言の取り消しをさせ、又は遺言を変更させた者
5号 相続に関する被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄、または隠匿した者

1号→殺人の既遂、未遂を含むが殺意があったことが必要。よって、殺意を持たない過失致死罪や傷害致死罪は含まれない。

5号→5号に該当する場合でも、不当な利益を得る目的がない場合には5号の欠格事由には当たらないとされている。(最判平9.1.28)すなわち、破棄、隠匿をする意図(故意)に加えて何かしらの利益を得る目的(故意)という二重の故意を要する。

※欠格は一身専属(欠格者にだけ帰属する事項)であり欠格者の直系卑属が相続等によって承継することはない。

892条(推定相続人の廃除)

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

推定相続人(相続人となる地位にある者)廃除の趣旨:被相続人が推定相続人に相続させることを欲しない場合、又は欲しないと一般的に考えられる場合に被相続人の意思を尊重し、相続人として廃除することによって遺留分(相続人が得られる最低限の相続分)をも完全に否定して相続権を剥奪する趣旨

※廃除は一身専属(被廃除者だけに帰属する事項)であり廃除された者の直系卑属が相続等によって承継することはない。

要件
1 遺留分を有する相続人であること
2廃除原因があること
※廃除原因:被相続人に対する「虐待」・「重大な侮辱」
その他著しい非行(一時的な虐待、侮辱は非行に当たらない)
3 家庭裁判所に廃除請求すること
4 排除の審判、調停があること

効果
1 相続権の喪失
※一身専属権であって廃除された者の子や孫に影響はない。
2 受遺能力は失わない
3 効力の発生は相続開始前なら即時に、相続開始後なら相続時に遡って生じる。

893条(遺言による推定相続人の廃除)

被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合においてその推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

894条(推定相続人の排除の取り消し)

1項 被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取り消しを家庭裁判所に請求することができる。
2項 1項の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。

895条(推定相続人の排除に関する審判確定前の遺産管理)

1項 推定相続人の廃除又は取り消しの請求があった後その審判が確定する前に相続が開始したときは、家庭裁判所は、親族や利害関係人、検察官の請求によって遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。推定相続人の廃除の遺言があったときも、同様とする

2項 第27条から第29条まで(不在者の財産管理人の職務・権限・担保提供及び報酬)の規定は、1項の規定により家庭裁判所が遺産の管理人を選任した場合について準用する。

相続・事業承継コラム