事業承継にはさまざまな種類がある。事業承継の手法について詳しく解説します!

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事業承継にはさまざまな種類がある。事業承継の手法について詳しく解説します!

日本の経済社会を支えている中小企業ですが、近年は経営者の高齢化に伴い、事業承継が大きな注目を集めています。事業承継の方法にはいくつか種類があるので、事業承継を検討している場合は、どのような方法で行うのがよいのかを考えていく必要があります。

そこで今回は事業承継の手法としてどのようなものがあるのか、メリット・デメリットを踏まえながら解説していきます。

■事業承継とは

「事業承継」とは、会社(事業)を現在の経営者から他の人(後継者)に引き継ぐ形で譲渡することをいいます。具体的には、会社事業だけでなく、会社の株式や各種財産、役職など、これまで経営者として保有・管理してきたさまざまなものを後継者に譲り渡すことになります。

中小企業のうち、特に閉鎖会社や同族会社で事業承継が問題となります。経営者の高齢化に伴って、事業承継への関心も高まっているものの、自分が退いた後の会社をどうしようかと頭を悩ませている経営者の数も年々増えているのが現状です。

事業承継は会社の存続という大きな問題であり、現経営者にとっては最後の大事業といえるでしょう。事業承継を成功させるためには早い段階から十分な準備を行っていくことが大切ですが、どのような方法で事業承継を行うかはその企業によって多種多様です。自社にとって好ましい方法は何かを考え、ベストな形で経営を承継させるようにしましょう。

一般的に事業承継には、親族に承継させる「親族内承継」、従業員などに承継させる「親族外承継」、「M&Aによる会社売却」の3つがあります。以下で詳しく見ていきましょう。

■親族内承継

「親族内承継」とは、例えば、経営者の子息・子女などの親族に会社を継がせるという方法です。

日本の中小企業では最も多い承継パターンとされており、2019年版「中小企業白書」によれば、親族内承継による方法で事業承継したのは、全体の55.4%過半を占めています。

しかし、この方法での事業承継は年々減少傾向にあります。背景にあるのは、ビジネスや起業の多様化によって、若い世代が家業の後継ぎに関心を持たなくなったことや、少子化の影響もあり、親族内承継がうまくいかないケースが増えています。

●メリットとデメリット

メリットとしては、次の点が挙げられます。

・ほかの方法と比べ、内外の関係者から心情的に受け入れやすい
・後継者が早期に決定するため、教育など長期の準備期間を確保することができる
・相続等により財産や株式を後継者に移転できるため、経営者資産の移動などがスムーズに行えること

他方で、デメリットとしては次の点が挙げられます。

・経営者に子どもがいない場合など、親族内に適切な人材が見当たらない場合は実質的に不可能
・昨今の事情として、安定した大企業のサラリーマン勤務や公務員勤務など親の跡を継がない子どもが増えている
・複数の候補者がいる場合に、その中で誰を経営者にすべきかの判断が難しい

●親族内承継を行うにあたってのポイント

親族内承継の方法によって事業承継を行う場合は、まずは現経営者が事業承継の基盤づくりを行うことが重要となります。ポイントとしては、

・経営方針の確認・把握等、後継者との意思疎通を十分に行うこと
・従業員や顧客、取引先等、社内外からの理解や協力が得られていること
・会社組織の整備が、世代交代を見据えたうえで行われていること

などがあります。

後継者の育成については、時間をかけて計画的に教育する体制がとられており、また社内だけでなく、社外においても必要な経験値を積ませることが意識されていることなどを確認する必要があるでしょう。

財産の引継ぎも重要な点です。
相続を原因として事業承継を行う場合は、その旨の遺言書を作成する必要があり、また他の相続人の遺留分を侵害することが予想される場合は、調整を行って他の相続人との了解を取っておく必要があるでしょう(遺留分の放棄について民法1049条1項参照)。

生前贈与を原因とする事業承継を行う場合は、節税対策についてもよく検討しましょう。現在は事業承継を行いやすいようにさまざまな政策が行われており、例えば、事業承継に関する贈与税の納税猶予特例など、自社の事業承継で利用できる制度に何があるかを確認しておく必要があります。

また税理士や公認会計士等の外部の専門家にすぐさま相談できるように窓口を持っていることなども重要です。

■親族外承継

親族外承継には、「従業員からの抜てき人事」と、「社外の有能な人物の招へい」の2つがあります。

特に前者については、事業存続に有益な承継は何かを第一に考え、複数の後継者候補を選定・教育し、最終的には周囲の協力と賛同を得て円滑な承継を行える環境を整備することが重要となるでしょう。そのためには、候補者の絞り込みと選定基準の明確化が重要となり、また、いわゆる実践社長塾を受講させて、自社の経営理念について深く考えさせ、後継者にふさわしい人材に育て上げることが目標となります。

借入金などの債務関連についても、事業承継の際には重要な問題となります。特に中小企業の場合は、担保となる優良物件が少なく、社長の個人保証となっている場合が多いので、事業承継を行う段階ではできるだけ借入金を減らすことが望ましいでしょう。

●メリットとデメリット

親族外承継のメリットとして次の点が挙げられます。

・広い範囲から後継者候補を選択できるため、人材不足の心配がない
・昇格や登用の既定路線が作りやすく、経営の引継ぎが容易に行える
・能力重視の承継となるため、不安定な経営や信用低下等の心配は少ない
・外部からの招へいの場合、経営の抜本的な見直しなどのテコ入れが期待できる

対して、デメリットとして次の点が指摘されます。

・後継者に資力が十分にないため、資産の移動に苦労する可能性がある
・個人保証となる債務の引継ぎ負担を考えなければならない
・社内の理解が得られない起用を行った場合、反発を招く恐れがある
・外部招へいによって経営方針が大きく変わる場合といった恐れが生じる

●親族外承継を行うにあたってのポイント

親族外承継の方法によって事業承継を行う場合も、親族内承継と同様、まずは現経営者が事業承継の基盤づくりを行うことが重要です。ポイントとしては、

・経営方針の確認・把握等、後継者との意思疎通を十分に行うこと
・経営者親族の意向並びに了解を確認していること
・従業員や顧客、取引先等、社内外からの理解や協力が得られていること
・経営者の交代が会社経営に及ぼす影響まで十分に考えていること

などがあります。有能な人材であっても、経営者になる気がないなど、現経営者と従業員との間に意識の格差がある場合もあります。事業承継を行う前までにしっかり教育をし、経営者としての自覚を芽生えさせることが必要な場合もあります。

また後継者の選定にあたって他の従業員からの理解が得られない場合は、その後の経営に大きな支障が出るおそれがあります。従業員間にわだかまりがある場合は、現経営者としてなるべく解消するように努めることが必要でしょう。また恣意的な選定と捉えられて、他の従業員に不信感を抱かせないよう、選定の明確な基準を設けておくことも大切です。

親族外承継の場合は、会社の有する債務問題が大きなネックとなります。銀行借り入れに対する債務保証や担保の処理等など、個人財産と会社資産につき、うまく処理する必要があるでしょう。財産の承継方法も検討しなければならず、遺言書を作成したうえで、相続人にしっかり理解させて、相続トラブルが生じないよう調整をしたり、利用できる法制度にどのようなものがあるかを確認したりする必要があります。

税理士等の外部の専門家に相談できる窓口を用意し、いつでも相談できる環境を整えておくことも重要です。

■M&Aによる会社売却

M&Aとは、”Mergers and Acquisitions”の頭文字をとったもので、いわゆる「企業買収」と呼ばれる方法で事業承継を行うことが近年増加しています。広い意味では親族外承継の一つですが、会社(事業)そのものを売却して社外の有能な経営者に会社を任せるという方法をとります。

このM&Aによる事業承継が増加してきた背景として、身近に後継者にふさわしい人物がなかなかいないこと、息子や娘に事業を引き継がせたくても嫌がることなど、周囲に適任者がいない点が挙げられます。

●メリットとデメリット

メリットとしては次の点が指摘できます。

・売却先とのニーズがあった場合、多額の売却益を創業者が得られる
・不採算事業を切り離す、有力な企業と合併する等によって経営の合理化が図れる
・長期間の教育期間を要しない

デメリットとしては次の点が挙げられます。
・M&Aの条件を満たす売却先を見つけることがなかなか困難
・社内の混乱や従業員の士気低下といったリスクを生じやすい
・取引先との関係維持を図るのに細心の注意を要する

●M&Aによる会社売却を行うにあたってのポイント

M&Aの手法として、売却以外にもさまざまな方法があるので、会社の目的にあった方法を選択することが大切です。具体的な方法としては、合併のほか、株式の交換、会社分割、事業譲渡などがあり、現経営者の経営権を保持したまま行う方法も考えられるので、自社にとってどのような方法で事業承継を行うのがよいのか、常に意識する必要があります。

M&Aを成功させるためには、
・交渉時において機密保持を厳守すること
・役員、従業員、取引先等の関係者に公表する時期やその範囲をよく考慮して、理解の得られる環境を整えること
・買い手会社の調査時(いわゆるデューデリジェンス(Due-diligence)の時)には、たとえ都合の悪いことがあっても隠し事をしないこと
・売り手会社の立場から支援してもらえる税理士、公認会計士等の外部の経験豊富な専門家に相談し、適切なアドバイスをもらうこと

などが重要なポイントとなります。

またM&Aを実施する際には、①企業診断によって自社の強みやセールスポイントとなる部分を確認しておくこと、②業績の向上並びに不要資産の処分による債務の軽減を行うこと、③経営者の個人資産と会社資産の分離による資産保有の明確化をしておくこと、④役員等への権限移譲並びに関連する諸規定の整備を行うことなどを意識する必要があるでしょう。

■まとめ

事業承継は中小企業の多くが抱える大きな問題です。日常の業務が手一杯で、後継者問題について考えている暇がないという経営者は多いでしょうが、早い段階から検討することで選択肢が増え、十分な対策を行うことができます。

「まだまだ先のこと」と考えて後継者問題を放置するのではなく、家族や従業員、取引先などの周囲の関係者のためにも早期に対策を検討しましょう。

相続・事業承継コラム