任意後見制度と法定後見制度。その違いとは?

Share on facebook
Facebook
Share on twitter
Twitter
Share on linkedin
LinkedIn

任意後見制度と法定後見制度。その違いとは?

■ 任意後見制度について

任意後見制度とは被後見人(後見を受ける本人)が知的能力が低下して保護を受ける必要が生じた場合に備えて、そのような場合が生じた場合の代理人を事前に定めることを認める制度を言います。任意後見制度は本人の自己決定権の尊重という観点から定められた制度です。
そして、任意後見制度では任意後見を将来受ける本人と将来任意後見をする者とが任意後見契約を締結することが必要です。任意後見契約は本人が将来認印後見する者に後見の事務(生活、療養看護、財産管理などの事務)を委託し、その事務に必要な代理権を授与する委任契約です。そして任意後見契約は公正証書によってしなければなりません(任意後見契約に関する法律3条)。また、任意後見契約は家庭裁判所によって任意後見監督人(任意後見人が適切な代理を行っているかを監督する者のことを言います)が選任されたときに効力が生じます(任意後見契約に関する法律2条1項)。

任意後見人は任意後見を受けた場合、任意後見を受けた範囲内で本人の代理権を有することとなります。任意後見人にどのような代理権があるかは登記事項証明書(後見登記等に関する法律)により確認することができます。また、任意後見人は被後見人の財産等に対する善管注意義務や被後見人が求めた場合には後見状況の報告等、民法上の委任契約の受任者としての義務を負うこととなりますし、被後見人の保護者として身上配慮義務(被後見人の心身、生活の状況等に配慮する義務)を負います。

任意後見契約はある種の委任契約であるため、委任契約の規定が適用されます。したがって任意後見契約は被後見人または後見人の死亡、被後見人または後見人が破産手続き開始の決定、後見人が後見開始の審判を受けたことが契約終了の事由となります。そしてこれに加え、任意後見人の解任、任意後見契約の解除、法定後見の開始によって終了します(これらは任意後見契約に関する法律に規定されています)。しかし、任意後見契約の解除は通常の委任契約の解除とは異なる点に注意が必要です。通常の委任契約の場合には委任者と受任者がいつでも解除できるという内容でした。しかし、任意後見契約の場合は契約の効力発生後は被後見人保護の観点から契約解除に正当な事由があり、かつ、家庭裁判所の許可を得なければ契約解除できません。そして契約の効力発生前は公証人の認証を受けた書面による解除が必要となります。

任意後見制度は本人が判断能力のある状態で将来の後見人を決定することができるという点で本人の信頼する人を後見人とすることができることや代理権の範囲を制限することができるため本人の意思に応じた財産管理等が可能となることにメリットがあります。
他方、任意後見は以下で説明する法定後見とは異なり、被後見人が行った法律行為を取り消すことができません。また、任意後見は報酬が必要となる後見方法です(報酬額は家庭裁判所によって決定されます)。このような任意後見のメリットとデメリットを考慮した上で任意後見契約の締結の判断をすることが望ましいと思われます。

■法定後見制度について

法定後見制度とは任意後見契約が締結されていない場合や任意後見契約による本人保護が適切でない場合に行われる法定の後見制度をいいます。法定の後見制度には被後見人の判断能力の程度に応じて成年後見、補佐、補助の三類型が存在しています。
成年後見とは、痴呆や精神上の障害によって日常的に判断能力を欠いている者の後見をいう(このような状態にある人を法律上、「事理を弁識する能力を欠く常況にある者」と表現されており民法7条では成年被後見人のことをこのように規定しています)。

成年後見人は後見開始の審判が行われた成年被後見人の保護者としての地位につくことになります。成年被後見人は日常生活に関わる行為を除いて自身の財産上の法律行為を行うことができません。そのため、成年被後見人が行うことができない法律行為は成年後見人が代理して行うこととなります。そして、成年被後見人が日常生活に関する行為以外の法律行為を行ってしまった場合には成年後見人は取り消すことができます(民法9条)。ただし上述の通り、日用品の購入等の日常生活に関わる行為については取り消すことができません。

成年後見人は任意後見人と同様に後見事務(財産の管理や法律行為の代理等)の遂行にあたって成年被後見人の意思の尊重とともにその心身の状態、生活状況に配慮すべき身上配慮義務を負担します。
もっとも、成年被後見人の判断能力が被保佐人や被補助人程度に回復した場合は成年被後見人自身や配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人(後見人を監督する立場にある者)、検察官の請求により成年被後見人の後見開始の審判を取り消さなければなりません(民法10条)。

次に被補佐人とは、精神上の障害により判断能力が著しく不十分である者のことを言います。被補佐人も成年被後見人と同様に補佐開始の審判によって被補佐人となり、その際に補佐人が選任されることとなります。補佐人には一定の重要な法律行為に同意をすることで被補佐人の不完全な管理権を補完する役割があります。
もっとも、成年被後見人と異なり原則として被補佐人を代理する権利はありません。ただし、特定の法律行為について家庭裁判所が補佐人に代理権を付与した場合はその範囲で代理権を行使することができるようになります。
被補佐人が補佐人の同意を得なければならない行為は借金の元本を受領する行為や保証をする行為、訴訟行為、重要な財産の処分に関する行為、相続の承認や放棄・遺産分割についての行為等があり、民法13条によって規定されています。補佐人の同意を得ないで行われた行為は取り消すことができます(民法13条4項)。
そして被補佐人についても成年被後見人と同様に被補助人程度の判断能力となった場合や判断能力が回復した場合には補佐開始の審判の取り消しの請求を行わなければなりません。そしてこの取り消しの請求者は成年被後見人の場合と同様となります。

最後に被補助人とは、精神上の障害により判断能力が不十分である者のことを言います。被補助人も成年被後見人や被補佐人と同様に家庭裁判所によって補助開始の審判を受けなければなりません。そして被補助人は家庭裁判所が補助人の同意を必要とする行為と定めた、特定の法律行為以外の法律行為を単独で行うことが可能です。ただし、同意を必要とする行為にもかかわらず、補助人の同意をえずに行った場合にはその行為は取り消しの対象となります。

そして補助人となるものは補助開始の審判において特定の法律行為についての同意権や代理権が与えられた範囲のみで補助人としての役割を果たすことになります。もっとも、補助人となる場合には被補助人の同意が必要です。この点が成年後見人や補佐人と異なります。
加えて被補助人の判断能力が回復した場合には成年被後見人や被補佐人と同様の者による補助開始の審判の取り消し請求をしなければなりません。
法定後見制度は任意後見に比べて法律行為の取り消しができる場合などがあり、被後見人にとって不利益を防止できます。また後見人は毎年、被後見人の全財産の収支を家庭裁判所に報告しなければならないため、後見において家庭裁判所が被後見人の生活を見守ることができ、被後見人にとって安心感を持つことができるという側面もあります。
しかし他方で後見人として選任された者は原則として被後見人が存命中は簡単に後見人を辞任することができませんし、後見人は家庭裁判所に被後見人の財産収支を報告しなければならないため書類の作成等の事務処理を行わなければならず、負担が大きいというデメリットもあります。そのため、法定後見を検討する場合には後見人側の負担についても考慮した上で検討することが必要となります。

■任意後見制度と法定後見制度の関係

後見制度には任意後見制度と法定後見制度が存在するが、両制度が同一人物に同時に行われることはありません。なぜなら、法定後見制度は任意後見制度がうまく機能している間は本人の意思を尊重し、法の介入を補充的に行い最低限度に留めるという法制度の考えが根底にあるからと言われています。

相続・事業承継コラム