配偶者居住権とは何か?配偶者居住権について徹底解説!

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配偶者居住権とは何か?配偶者居住権について徹底解説!

■はじめに

平成30年度の民法(相続法)改正によって、配偶者居住権という制度が新たに誕生しました。配偶者居住権とは、文字通り被相続人の配偶者に居住権を認める権利ですが、「居住権」といってもなかなか馴染みのない言葉でイメージしにくいのではないでしょうか。この記事では、配偶者居住権とはどんな制度なのか、どういうメリットがあるのかなどについて、徹底的に解説いたします。

■配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、被相続人の配偶者に原則として終身の建物利用権を与える制度です(民法1028条1項柱書本文)。居住権というのは、あくまでも利用する権利であり、無償での使用・収益や、登記の設定が可能ですが、処分権限がないという点で所有権とは異なる権利です。
なお、無償というのは利用にあたって無償ということであり、相続における遺産分割では、居住権としての価値は評価されます(評価方法は後述)。
この制度ができた背景は、平均寿命が延びたことや高齢化社会の進展に伴い、配偶者が安心して余生を送れるようにするというニーズを満たすためです。
例えば、定年退職後自宅に居住していた夫婦のうち、夫が先に亡くなったとします。自宅(建物・敷地)は夫の名義で、資産価値としては2000万円あったとします。夫のそれ以外の財産は2000万円です。相続財産は、合計で4000万円ということになりますから、妻は法定相続分に従うと2000万円相続できることになります。
ところが、妻がこれからも自宅に住み続けるために、自宅の所有権を確保すると、2000万円の相続分は全て自宅の所有権を確保して終わってしまい、他の財産を得ることはできません。これでは、老後の生活が苦しいものになる可能性があります。
そこで、所有権ではなく、「配偶者居住権」を確保することでこの問題を解決できます。配偶者居住権は、所有権と比べると評価額が低いのが特長です。例えば自宅、所有権が2000万円であっても、配偶者居住権の価値は500万円だという場合があります。配偶者は、残りの1500万円分を預貯金などで相続することができますから、その後の生活を安心して送ることができます。
この権利は、制度化される前も、後継ぎ遺贈や負担付遺贈などの制度を通して利用されていましたが、相続法改正によって制度が明確化されました。なお、これは配偶者に認められた一身専属権であり、配偶者以外の者に対して利用権を認めたいという場合には、依然として後継ぎ遺贈や負担付遺贈によって対応するということになります。

■配偶者居住権の成立要件

配偶者居住権の成立要件は民法1028条に定められています。これによると、配偶者居住権は配偶者が被相続人の財産に属した建物に、相続開始時に居住していた場合であって、さらに次の各場合に該当するときに認められます。
①遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき(民法1028条1項1号)
②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき(同2号)
③被相続人と配偶者の間に、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約があるとき(554条)
④共同相続人間で配偶者居住権の取得について合意が成立しているとき(1029条1号)
⑤配偶者が配偶者居住権の取得を希望し、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認められるとき(2号)
なお、④⑤の場合によって配偶者居住権を取得したい場合は、家庭裁判所の審判を受ける必要があります。
設定の方法は、配偶者居住権は、遺言や、家庭裁判所の審判のほか、遺産分割協議によります。②③の場合のように、被相続人に配偶者居住権を設定する意思があればスムーズに成立するのですが、①や④の場合は共同相続人の合意が必要ですし、⑤では家庭裁判所の判断を仰ぐ必要があります。そのため配偶者居住権をスムーズに取得するためには、生前に夫婦間でよく話し合っておくことや、推定相続人(息子・娘や、両親をはじめ、親族)、共同相続人と円滑に交渉を進めることが重要です。トラブルを避けるためにも、弁護士に相談することも有効な手段だといえます。

■配偶者居住権の内容と効力

●配偶者居住権の期間

配偶者居住権は、原則として配偶者が亡くなるまで認められます(1030条本文)。例外的かと思いますが、「新居を探すまでの3年間まで」というようにそれより短い期間を設定することも可能です。

●配偶者居住権の登記設定

また、配偶者居住権には登記を設定することができます。登記をしておくことで、法的にいうと「第三者に対抗」できるようになります。すなわち、万が一建物の差し押さえや売買などがあっても、利用権があるから建物を使うことができますということを正当に主張することができますし、妨害の停止を求めることができます(1031条2項、605条、605条の4 )。この点は、従来の負担付遺贈では登記の設定はできなかったので、配偶者居住権の新たなメリットということができます。
また建物所有者には、配偶者居住権を取得した配偶者に登記を備えさせる義務が課されます (1031条1項、2項)。

●配偶者による使用収益

配偶者には居住建物の利用にあたっては善管注意義務が課されます。これは、簡単にいうと「自己の財産におけると同一の注意」よりも丁寧に扱わなくてはいけないという意味合いを持つので、今までよりも少し丁寧に自宅を使う必要があるといえます。
居住建物を他人に賃貸したり、改築や増築をする場合は、所有者の承諾を受ける必要があります(1032条3項)。配偶者居住権を他人に譲渡することはできません(同2項)。
また、居住建物の修繕をすることも可能です(1033条)。その際は、所有者に連絡する必要があります。なお、所有者が修繕することもできます。費用負担については、通常の必要費は配偶者が負担、それ以外は所有者が負担します(1034条、196条)。

●配偶者居住権の消滅

配偶者居住権は一身専属権ですから、配偶者の死亡または期間満了によって消滅します。また、配偶者が、善管注意義務違反や、承諾を得ない増改築など、義務違反があった場合には、所有者が配偶者居住権を消滅させることができます(1032条4項)。もっとも多くの場合では、建物所有者は配偶者の子であるなど、親族関係にあることが多いでしょうから、トラブルにならないように連絡を取り合うことや話し合いをすることが大切です。

■配偶者居住権の価値評価方法

先ほどの通り配偶者居住権は、利用においては無償ですが、その権利自体には価値があり、相続財産に含まれます。具体的な算定方法としては、所有権の現在の価値から、負担付所有権の価値を引いたものが配偶者居住権の価値となります。
負担付所有権とは、ここでは、「配偶者居住権の設定された所有権」のことをさします。配偶者居住権の設定されている所有権は、配偶者が存命の間は使用収益することができないので、価値が所有権と比べて低いのです。負担付所有権の価値は、建物の耐用年数、築年数、法定利率、配偶者の平均余命などから総合的に計算します。配偶者居住権の価額は、遺産分割において考慮されます。

■配偶者居住権のメリット・デメリット

配偶者居住権は、制度設計の際に目的とされた、配偶者の老後の生活の確保ができるという点が最大のメリットです。老後の生活には、病気や入院、介護などのリスクに備えて貯金がないとご不安だと思います。だからといって、長年住んだ自宅を手放して、別のところに住むというのはとても大変です。こうした問題を解決し、長年住んだ自宅に住みながら、相続財産を確保できるというのが一番の利点です。また、場合によっては相続税の節税となることもありますが、想定されるケースとしてはあまりありません。
一方でデメリットとしては、配偶者居住権は誰かに売ることはできないという点や、権利関係が複雑になるという点があります。相続人間でしっかりと取り決めをしておかないとトラブルになりかねません。相続では、どのくらい財産を確保するか、どれくらい相続税が節税できるか、といったことに目がいきがちですが、一番気をつけるべきなのは「相続人間でトラブルにならないこと」です。長年一緒に過ごした家族や親族と、お金のこと、財産のことでトラブルになることは精神的負担がとても大きくなってしまいます。こうしたトラブルを避け、お互いにとっていちばん良い解決をするためには何が良いかは、個別のケースや各家庭の家族関係によっても異なりますから、メリットとデメリットをしっかり把握して、話し合いをきちんとすることが望ましいといえます。

■まとめ

この記事では配偶者居住権について解説しました。このように配偶者居住権は、残された配偶者の老後の生活のために役に立つ制度ですが、所有権とは異なる性質を持つ権利だということがお分かりいただけたかと思います。配偶者の生活の確保という観点からは、他にも相続税の配偶者控除制度を利用して、遺産分割協議により配偶者に全ての財産を相続させるなど、他にも様々な方法があります。そして、どの方法がいちばん良いのかは、個別のケースによって異なります。お悩みの方は、一度専門家に相談して検討してみると良いでしょう。

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