特別受益とは何か?特別受益を徹底解説!

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特別受益とは何か?特別受益を徹底解説!

■はじめに

身内の方が亡くなることにより、突然発生する相続の問題。相続は俗に「争族」とも揶揄されるように、共同相続人間でトラブルになってしまうこともあります。
例えば、法定相続分にしたがって財産を分けよう、ということになっても、「お兄ちゃんはお父さんの生前の間に、土地や結婚資金などたくさんお金をもらっていたじゃない。それなのに、相続分まで受け取るなんてずるい」というように、生前贈与などを巡ってトラブルになる例があります。このような場合に活用できるのが、特別受益の制度です。では、具体的にはどのような制度で、特別受益を考慮すると具体的な相続分はどれくらいになるのでしょうか。この記事では、特別受益について詳しく解説していきます。

■特別受益とは

●特別受益とは何か

特別受益とは、民法903条に規定されていて、相続人の中に、被相続人から特別な財産利益を受けた者がいる場合に、すでに受けている特別受益の分を相続分から減らすという制度です。具体的には、相続開始の時の財産に、特別受益を加えたものを相続財産とみなして相続分を計算して、そこから受益額を控除した残額が,その特別受益者の相続分となる仕組みです。
相続人の中に、すでに多くの財産をもらっている人がいる場合に、このようなことを考慮せずに相続分を決めてしまうと不公平です。そこで、特別受益を考慮することで共同相続人間の不公平を是正しようとする制度なのです。

●特別受益の制度概要

民法903条1項は、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする」と規定しています。
この規定を整理すると、次のようなプロセスで特別受益を確定するということになります。
①特別受益を確定する
②遺贈以外の特別受益を相続開始時の財産に加えることで、みなし相続財産を確定する(「特別受益の持戻し」といいます)
③②で確定したみなし相続財産に法定相続分を乗じて、具体的な取り分を確定する
④特別受益を受けた者の具体的相続分は、③で計算された取り分から特別受益を控除して確定する
このような流れになります。
なお、被相続人が「生前贈与を特別受益として考慮しないでほしい」という意思表示をしていた場合は、特別受益を考慮することはできません(903条2項)。
なお、「特別受益」とは、ある相続人が被相続人から生前にもらっていた贈与財産のうち、903条1項に定められたものをいいます。その範囲は、次に解説していきます。

■特別受益にあたる財産とは

●特別受益に含まれる範囲

①婚姻・養子縁組のための費用
婚姻・縁組費用は、903条1項にも掲げられている代表的な特別受益になります。ただし、これに関連する費用が全て特別受益になるというわけではありません。一般的には、結納金や結婚式の挙式費用はこれに含まれず、持参金や支度金などが特別受益にあたることが多いです。
ただし、特別受益にあたるかどうかは、一般的な名称が基準となるのではなく、実質的に「遺産の前渡しなのかどうか」「他の相続人と比べて不公平なのか」によって、個別的に判断されます。そのため、各家庭の経済状況や、他の相続人にどれくらい支出されているかなどのバランス等に照らして、特別受益にあたるかどうかが決まります。
②生計の資本としての贈与
不動産の贈与や、金銭、債権、有価証券の贈与、借地権の設定についても、贈与に含まれます。もっとも①と同様、それが特別受益に含まれるかどうかは個別の状況によって異なります。一般的には、毎年のお小遣い・慰労金や、他の兄弟も同様にもらっているような贈与は、特別受益に含まれず、特定の子に対する高額の贈与については、特別受益にあたるとされるケースが多いです。
③高等教育の費用
高校、大学・専門学校などの費用も、特別受益の問題になり得ます。もっともこの費用に関しても、「遺産の前渡しなのかどうか」「他の相続人と比べて不公平なのか」などの観点から、各家庭の経済状況に応じて個別的に判断されますから、一律な線引きはありません。判断要素としては、他の相続人も大学に進学しているのか、授業料はどれくらいだったかなどを検討することが考えられます。例えば、妹は高校卒業後大学進学を断念したが、兄は大学に進学しさらに留学に2年間行った、などの事情では、大学の授業料や留学費用などが特別受益にあたる可能性があります。
④遺贈
遺贈も特別受益として扱われます。もっとも遺贈は相続財産に含まれていますので、持ち戻す必要はありません。

●特別受益に含まれない範囲

①生命保険金・死亡保険金
生命保険金は、受取人の権利であり、相続財産に含まれるわけではありません。そのため特別受益には含まれないのが原則です。もっとも、相続財産の額と生命保険金額を比べて、不公平感の高いものであれば、特別受益として扱うべきではないかという見解も存在します。
なお、最高裁決定では、死亡保険金請求権は、保険受取人の固有の権利であり903条1項の特別受益に当たらないとした上で、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡青求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる」としており、死亡保険金が特別受益に準ずる可能性があることを示しています。
(裁判年月日 平成16年10月29日│最高裁第二小法廷決定│事件番号 平成16年(許)第11号)
②配偶者に対して遺贈・贈与された居住用建物・敷地
平成30年度の相続法改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、自宅等の居住用建物・敷地を遺贈又は贈与した場合は、原則として特別受益の範囲に含めないこととなりました(903条4項)。改正前は、自宅等が配偶者に贈与・遺贈された場合、特別受益にあたるとされて、贈与を受けなかった場合と同額の相続財産しか受け取ることができませんでした。しかし、自宅等の贈与が配偶者の長年に渡る貢献と、老後の生活を保障する趣旨で行われることが多いことに鑑み、現在では、特別受益に含めない趣旨で行われた贈与だと推定するものと規定されています。

■特別受益の評価基準時

特別受益財産の価額の評価基準時は、受贈当時の状態のまま残っているものとして、相続開始時とするとされています(904条)。例えば、受贈者が、相続開始時にすでに受贈財産を壊してしまったり、捨ててしまっていたとしても、そのまま残っているものとして計算されます。
もっとも、天災などによって受贈財産が滅失している場合は、904条の反対解釈より、特別受益は消滅します。
例をあげて説明すると、相続人が、被相続人の生前に価額が2000万円の家屋をもらっている場合、経年劣化や、破壊などで価値が1500万円に低下しているとしても、受贈当時は2000万円だったのですから、2000万円の特別受益として評価されます。一方で、家屋が、土砂災害や落雷などにより、無くなってしまった場合には、受贈が無くても相続開始時にはその財産は存在しないでしょうから、特別受益として持戻しの対象とはなりません。

■特別受益の持ち戻しと具体的相続分の計算方法

計算の仕方としては、先ほどの通り、相続財産と、特別受益の金額を合計して、みなし相続財産の額を確定します。次に、法定相続分の割合に応じて取り分を計算し、そこからすでにもらっている特別受益の額を引いて、具体的相続分を確定するという流れになります。
そうといっても、なかなかイメージが掴みにくいと思いますので、今までのことを踏まえて、具体例を用いて説明します。
Xさんが亡くなったとします。Aさんの配偶者は先に亡くなっているので、相続人はA,B,Cさんの3人です。相続財産は、Xさんの預貯金と、自宅用建物・敷地を合わせて6000万円相当です。また遺言などはありませんでした。そこで、これを単純に法定相続分で分けると、A、B、Cの相続分はそれぞれ2000万円ずつということになります。
ところが、B、Cさんはこれに不満を持っています。なぜなら、長男であるAさんは生前Xさんから特にかわいがられていて、多くのお金をかけてもらっていたからです。
具体的には、Aさんだけが留学に4年間行っており、その留学費用として1000万円をもらっていました。また、Aさんが会社を起業する際に、開業資金として1000万円を贈与していました。さらに、Aさんが結婚した際には、新居を構えるための資金として、1000万円を贈与していました。これらと同種のお金は、B、Cさんはもらっていませんでした。
これらが全て特別受益に含まれるとすると、その額は合計で3000万円となります。
これを相続財産である6000万円に足し(持戻し)、9000万円がみなし相続財産になります。
すると、A,B,Cそれぞれの取り分は9000万円÷3=3000万円になります。
そして、Aさんの具体的相続分は、取り分3000万円-特別受益としてすでに受け取っている額3000万円=0円ということになり、相続を受け取ることはできません。B、Cさんが3000万円ずつ受け取ることになるのです。

■後から特別受益が発覚した場合

遺産分割協議後に、ある相続人が特別受益にあたる生前贈与を受け取っていることが発覚した場合は、遺産分割協議のやり直しをするか、遺留分侵害額請求をすることになります。なお遺留分侵害額請求権は、相続開始及び遺留分を侵害する贈与があったと知ったときから1年以内に行使しなければ、時効によって消滅するので注意が必要です(1048条)。

■まとめ

この記事では、特別受益について解説していきました。上記を読んでも分かる通り、どの財産が「特別受益」にあたるのかという判断は、個別の経済状況などによって異なるものであり、一律に特別受益だと判断する基準を立てることが難しいです。そのため、「もしかして特別受益かもしれない」という判断はご自身では難しいと思いますし、なおさら直接相手に伝えてしまうと揉め事やトラブルにもなりかねません。そのため、弁護士に相談して適切な判断を仰ぐことや、相手との間に入ってもらって円満な解決を目指すことが重要だといえるのではないでしょうか。

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