従業員持株会と金庫株を用いた節税

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従業員持株会と金庫株を用いた節税

従業員持株会を用いた節税法

重い相続税の負担を軽くするために

オーナー経営者が自社株のすべてまたは大部分を所有していた場合、いざ相続が起こった際に、自社株の相続税評価額が非常に高額となり、その結果として後継者に相続税の負担が重くのしかかることが予想されます。

場合によっては、後継者が相続税を支払うために、自社株式を会社に売却したり、会社から資金を借りなければならない状況に陥り、会社の資金繰りにも影響を及ぼしかねません。

とはいえ、自社株は通常、上場株式のように市場性がありません。

相続税評価額で他人に売却することは不可能に近く、経営権の問題から考えてもむやみに譲渡することはオススメできません。

そこで、この自社株対策の1つとして、経営権に影響しない程度の株数を従業員持株会に譲渡したり、贈与したりする方法があります。

株式の所有割合は3分の2以上が目安

従業員持株会とは、授業員が自社の株式保有を目的とした組織です。

一般的には、持株会自身が株主となり、持株会を構成する従業員は、持株会が所有する株式の出資割合に応じた持分を共有することになります。

株式は持株会の理事長名義で登録・一括管理され、配当金は理事長名義で受領され、それが従業員に分配されます。

持株会を用いることで、株式を社外に流出させず、オーナーの相続財産を減らすメリットがあります。

自社株のうち経営上、必要最低限の株数(一般的には株主総会の特別決議を可決できる議決権の3分の2以上)はオーナー一族が所有します。あとは経営権に影響が生じない範囲で、オーナー所有の自社株のうち相続税の計算上、負担が重い部分を従業員持株会に渡してしまえばいいのです。

従業員持株会設立に当たっての注意点をまとめておきましょう。

①従業員の持株比率を10~15%程度にとどめておく

②持株会へ放出する株式を無議決権株式とする

いちばんはオーナーの経営権に影響がでないことです。定款変更や組織変更など重要事項を決議する際、必要な議決権が3分の2以上であるため、オーナーは少なくとも株式(議決権)の3分の2以上は所有したほうが望ましいでしょう。

②のように持株会へ移す株式を議決権が生じない株式、いわゆる無議決権株式に転換させておくのも1つの方法です。

①持株会に入会できる対象者の範囲を勤続年数や役職で限定しておく

②定款に株式の譲渡制限規定を設けるようにする

③株券を不発行とするか、株券を発行している場合には、株券の不所持の届出を提出してもらうか、株券の引き出しを禁止する

④退職または脱退する場合には、持分株式を持株会が定めた価格で、持株会が買い取る旨を持株会等の規約に明記する

単独株主権と少数株主権にも配慮をした設計をしよう

株式がもつ権利は大きく分けて「自益権」と「共益権」に分かれます。

自益権とは、株主が会社から経営的利益を受けることを目的とする権利です。

共益権とは、株主が会社の経営に参与することを目的とする権利です。

さらに、共益権は「単独株主権」と「少数株主権」に分かれます。

単独株主権とは、株主の持株比率や議決権比率にかかわらず、株式を1株でも保有する株主に生じる権利で、「株主代表訴訟提起券」などがあります。

少数株主権とは、会社の発行済株式総数または議決権総数の一定割合を保有している株主に生じる権利で、会社の発行済株式総数または議決権総数の3%以上保有する株主に権利が生じる「帳簿閲覧権」などがあります。

ここで、注意しておきたいことがあります。

それは、持株会の株式が無議決権株式だとしても、会社に対する一切の権利行使が排除されたわけではないということです。議決権がなくても、単独株主権である「代表訴訟提起権」や少数株主権である「帳簿閲覧権」という権利は有しているので、無議決権株式にしておけば安心というわけではありません。

場合によっては、従業員持株会の構成員に構成員を選出する際は、オーナーサイドに一定の理解を示してくれる人を選ぶなど配慮が必要です。

従業員持株会は、活用の仕方によってはオーナー経営者にも従業員にも効果的でメリットのある制度です。

ただし、オーナー経営者の意図しないデメリットを被る恐れもあるため、導入にあたっては、各酒税法だけでなく、民法にも精通しているプロに相談するといいでしょう。

「金庫株」を活用する

会社に株式を買い取ってもらい納税資金に充てる

自社株式を財産に加味していなかったり、「出資額=相続税評価額」と勘違いしていたりする方は少なくありません。1000万円の出資額が2倍、3倍の相続税評価額となっていることもあります。

換金性のない非上場株式が相続財産になると、相続税の納税が困難になります。

そんなときの方法の1つが、会社に株式を買い取ってもらい、相続税の納税資金に充てる「金庫株」の活用です。

金庫株とは、発行会社自らが取得する自己株式のことをいいます。

以前は、発行会社の自己株式の取得・保有に規制がありましたが、平成13年の商法改正により、その取得・保有が原則自由になりました。

また、会社法改正後、年1回の定時株主総会だけではなく、臨時株主総会でも自己株式の取得ができるようになりました。

ただし、会社法上、その買収財源には規制があります。

自己株式の買取財源は、分配可能額に一定調整をした金額が限度になります。

おおまかにいえば、貸借対照表の純資産の部の合計から資本金などを控除して一定調整を加えた金額が所得財源になり、それを超えて取得した場合は無効となります。

なお、純資産額が300万円未満の法人は、自己株式の取得はできません。

節税効果が高いのは「相続前」より「相続後」

通常、金庫株制度を利用して会社に買い取ってもらった場合、買取金額のうち会社の資本金等相当の金額を超えた部分は、「みなし配当」となり、配当所得として相続課税されます。すると、所得税だけで最高45%が課される可能性もあります。

最高税率が適用されることで、手取金額が譲渡価額の半分近くになってしまう可能性もあるので注意が必要です。

一方、相続により取得した株を相続の日の翌日から相続税申告期限後3年以内に譲渡した場合には、買取金額が資本金等相当の金額を超えた場合でも、その部分はみな配当とはならず、譲渡所得の取扱いになります。

発行法人の買取価額から取得費(通常出資額)と譲渡日を差し引いた残りの利益に対して、一律20%(所得税15%+住民税5%)の分離課税で済みます。

なお、この場合には、「相続財産を譲渡した場合の所得費加算の特例」を利用して支払った相続税のうち、譲渡した株式に対応する相続税分を取得費に加算することもできます。

時価を超えた買取価額は発行法人側に課税されることも

一方、発行会社は、買取価額に注意しなければなりません。

現会社法では、自己株式の所得は資本等取引と認識され、発行会社には、原則、課税関係が生じないことになります。

しかし、何らかの経済的利益の供与を意図し、適正価額を意識しながらも、時価と解離した価額で取引した場合には、発行会社に課税が生じる可能性もあります。金庫株制度を利用するときは、専門家に相談してみてください。

相続・事業承継コラム