法定相続分とは?いろいろある”相続分”のルール。

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法定相続分とは?いろいろある”相続分”のルール。

相続が開始した際、相続人にとって最も関心のある事項は、「誰がどの財産をどのような割合で相続するのか」ではないでしょうか。
被相続人(亡くなられた方)に遺言がある場合は、基本的にその遺言通りに相続することになりますが、遺言がない場合は相続人全員による話し合いで決める必要があります。その話し合いの際に参考となるのが「法定相続分」です。
今回はこの「法定相続分」について解説していきます。また相続分に関連する事項として、特別受益や寄与分、遺留分について簡単にご紹介していきます。

■法定相続分とは

相続では、相続人を確定した後、誰がどの財産をどのような割合で相続するのかを決める作業が必要になります。そして、財産をどのように分けるかは、まず遺言書があるかどうかを確かめる必要があります。
遺言書がある場合は、基本的にその内容に基づいて遺産分割をし(指定相続分による遺産分割。民法902条1項)、遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、話し合いで遺産分割を行います(協議による遺産分割。民法907条参照)。

そして後者の遺産分割協議の際に目安となるのが「法定相続分」です。「法定相続分」とは、民法に定められている相続人の取り分の割合をいい、誰が相続人になるかによって以下のように具体的な法定相続分が定められています(民法900条参照)。

●配偶者のみが相続人となる場合

配偶者がすべての財産を相続することができます。

●配偶者と直系卑属(子、孫など)が相続人となる場合

配偶者:2分の1、子ども:2分の1という相続分が定められています。子どもが複数人いる場合は、この2分の1をさらに子どもの数で等分することになります。

●配偶者と直系尊属(両親など)が相続人となる場合

配偶者:3分の2、親:3分の1という相続分が定められています。両親がともに健在の場合は、この3分の1をさらに父母で2等分することになります。

●配偶者と兄弟姉妹が相続人となる場合

配偶者:4分の3、兄弟姉妹:4分の1という相続分が定められています。被相続人の兄弟姉妹が複数人いる場合は、この4分の1をさらに兄弟姉妹の数で等分することになります。

●直系卑属(子、孫など)のみが相続人となる場合

子どもがすべての財産を相続することができます。子どもが複数人いる場合は、その数だけ等分することになります。

●直系尊属(両親など)のみが相続人となる場合

親がすべての財産を相続することができます。両親がともに健在の場合は、父母で2等分することになります。

●兄弟姉妹のみが相続人となる場合

兄弟姉妹がすべての財産を相続することができます。兄弟姉妹が複数人いる場合は、その数だけ等分することになります。

このように、被相続人との関係に応じて相続分が定められていますが、上記の相続分はあくまで参考となる基準に過ぎないことに注意しましょう。法定相続分は相続人の公平性を保つために定められたものですが、各家庭における個別的な事情を反映しておらず、法定相続分でそのまま相続した際に妥当ではない結果が生じる場合もあります。
遺言書がない場合の遺産分割は、基本的に相続人同士の話し合いにより決められるので、法定相続分通りの相続をしなくても構いません。法定相続分を参考に話し合いで決めましょう。
また相続人間の公平を図るために、民法では以下のような制度が定められています。ここでは簡単に制度の概要について解説します。

■特別受益

相続人の中で、被相続人から過去に財産の贈与を受けた者や、婚姻や養子縁組あるいは生計の資本として財産を譲り受けた者がいる時には、その贈与された財産を相続財産(遺産)の中に計算上加え、贈与を受けていない相続人との間で公平を図る制度を、特別受益制度といいます(民法903条、904条)。

例えば、相続人が子ども2人の場合に、一方の子どもが過去に被相続人から高額な土地を譲り受けていた場合に、その事情を考慮せずに等しい割合で相続がなされると、贈与を受けた相続人は「贈与分+相続分」の財産が得られるのに対して、贈与を受けていない相続人は「相続分のみ」の財産しか得られません。しかも、贈与の対象となった土地が相続財産の対象に含まれていれば、より多くの相続財産が得られるはずでした。このようなケースで相続人間の利益を調整するのが特別受益制度です。

■寄与分

寄与分制度とは、相続人の中で、被相続人の事業を無償で手伝ったり、被相続人の療養介護などを行ったりなどして、被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献を果たした者がいる場合は、その者の相続分を増加させるという制度です(民法904条の2)。

例えば、被相続人の介護を数年間行って被相続人を支えてきた者の相続分と、被相続人の生前は何の音沙汰がないのに被相続人が亡くなった後に威勢よく現れた者の相続分が、全く同じというのは感覚的におかしいことが分かるでしょう。被相続人を支えてきた者により多くの財産を相続させるという配慮がなされるべきです。このような配慮を法律上認めたのが寄与分制度です。

寄与分制度は、平成30年度民法改正により、相続人以外の親族でも介護などの特別の寄与を行った場合に、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)を求めることができる権利を認めています(改正民法1050条)。これにより、例えば被相続人の長男の妻が被相続人の介護を行っても、遺言等がない限り遺産がもらえないという従来の運用が改められ、法が定めた条件を満たせば貢献に見合った金銭を請求することができるようになりました。

■遺留分

誰でも自分の財産を贈与又は遺言によって自由に処分できます。しかし例えば、「すべての財産を愛人に譲る」という遺言があると、被相続人の財産に依存して生活していた者(同居していた配偶者など)や、相続によって財産を取得できると期待していた相続人(被相続人の事業を承継する者など)の気持ちを裏切ることになります。そこで、民法は兄弟姉妹以外の相続人に、「遺留分」という最小限度の相続できる割合を認め、相続人の保護が図っています(改正民法1042条以下)。

遺留分を侵害された相続人は、侵害した者に対して「遺留分侵害額請求」(平成30年度民法改正により「遺留分減殺請求」から名称が改められた)を行うことで、遺留分に相当する金銭を取り戻すことができます。これにより、被相続人の意思を尊重しつつ、相続人の権利を保護しています。

遺留分制度は平成30年に行われた民法の改正により、様々な点で変更が加えられました。従来とは異なる運用がなされる部分もあるので、改正法に対応した情報を仕入れるようにしましょう。

以上の解説をまとめると、遺産分割は遺言による場合と、話し合いによる場合があり、話し合いで遺産分割を行う際に目安になるのが法定相続分です。もっとも、法定相続分はあくまで目安であり、法定相続分によらずに遺産分割をしても構いません。また、具体的なケースで相続人間の利益の調整が必要な場合に利用される制度として、特別受益や寄与分、遺留分などがあります。

上記の解説を参考に遺産の分割方法について考えてみましょう。必要に応じて弁護士などの法律専門家に相談しましょう。

相続・事業承継コラム